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1-55 いつか王子様は、

「はー、もういいわ…面倒くせえ…」 やがてヨコはため息をつきながらそう溢した。 こんな往来で泣いたりして、愛想尽かされるに決まっている。 ナナメは泣いてしまいながら顔を上げることができなかった。 「ごめん、なさい…」 愚かな自分を恥じながら消えてしまいたくなっていると、 彼は跪いてこちらを見上げてくる。 「ナナメ」 ヨコは握りしめていたナナメの両手を取ると、そっと手の甲に口付けた。 「…好きです」 「え……」 「好き、好き、好き。 愛してます、あなたのことを」 ちゅ、ちゅ、ちゅ、と何度も手に口付けられながら そんな風に言われてナナメは瞬時に身体が熱くなってしまった。 「ちょ…ヨコさん…」 「好き、ナナメ、好きです。」 ジッと見上げられて、何も考えられなくなりそうだった。 その瞳の輝きは真っ直ぐとこちらを向いていて、 ナナメは涙をだらだらと溢れさせながら目を逸らせずにいた。 「お前がわかるまで毎日言うから 好きなだけ強情でいれば」 「…っ…、なん、で……」 なんで、全部、掬ってくれるんだろう。 こんなに馬鹿で情けなくて、何にも持たない俺なのに。 「なんでとか、知らねえよ。 お前の事が好きで、好きすぎて、誰にもとられたくないので ふらふらどっか行かないようにこうやって繋ぎ止めようとしてるだけ」 ヨコはどこか怒っているように目を細めてまた手に口付けてくる。 これは夢なのか? 哀しい現実に耐えられない自分が見ている妄想なのか。 それなのに指先から伝わる熱が紛れもなく現実ですよと思い知らせてくる。 「なんで?俺で…いいんですか…っ?男ですよ…、おっさんですよ…」 「あとすぐ泣くし変な名前で料理できなくてエロ小説書いてんだろ」 両手に、両手を絡められてぎゅっと繋がれながら、こちらを真っ直ぐに見上げてくる。 「ナナメが好き」

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