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1-56 いつか王子様は、
全部全部、彼には何にも関係がないという。
ナナメは自分の複雑な思考回路が弾け飛んで、
何も要らない、この人さえいれば良いと思った。
「ナナメさん…、俺と付き合ってくれませんか」
彼の言葉に、ナナメは思わず崩れ落ちそうなほど涙が込み上げてきて
その両手を握り締めながらボロボロと泣きじゃくった。
「好きでいさせてもらえないかな」
ぐい、と腕を引っ張られナナメは地面にへたり込むような形になりつつも、抱きしめらた。
いつもすぐ近くにあるのに、
触ってはいけないと思っていたその腕の中に吸い込まれていくことが
ただただ単純に嬉しくて。
「俺は、ヨコさんを…すきでいて、
ず、ずっと…すきで…いても…いいってことですか…?」
しゃくりあげながら、震える声が零れた。
「好きでいてよナナメ」
抱きしめられたまま頭を撫でられる。
胸の中から何かが出てきそうなくらい想いが溢れて苦しかった。
訳がわからなかった。
訳がわからないくらい、幸せだった。
自分なんか愛されるわけないと思ってた。
選ばれるわけないと。
レースクイーンでも美少女でもない自分が、
好きになってしまうことすら烏滸がましいんじゃないかと。
だけど。
彼の腕の中で号泣しながら、ナナメはただただ幸せなこの瞬間が
続くようにと願うばかりだった。
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