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1-57 泣いてもいいけど。
帰りにスーパーに寄って、食材を大量に買い込んだ。
ナナメは泣き腫らした目を擦りながら、
ずっとヨコの服の端っこを握り締め
どこかぼうっとしたように覚束ない足取りで黙ってついてきていて
ヨコも特に雑談をけしかけることもなく淡々と買い物袋を両手に
いつもの住宅街の、赤い屋根の家に戻ってきた。
玄関に入って荷物を置くと、
ナナメにぎゅっと後ろから抱きつかれる。
「ヨコさん……ごめんなさい、俺、また泣いちゃったりして」
ナナメはぼそぼそと喋っていて、ヨコはため息をつきながら
彼の腕を解いて振り返った。
どこかまた、瞳を潤ませているその顔を両手で包んでぐにぐにと頬を捏ねくり回す。
「本当だよ」
「ふぇ…」
「俺以外の前で泣くなよ?」
涙目の彼は既にとんでもない破壊力で、
さっきボロ泣きされた時は正直頭がどうにかなりそうだった。
今まで別に泣き顔に弱いだなんて事は無かったし、煩わしいとすら思っていたのだが
なんで自分がこんなにもこの顔に弱いのかは未だに解明できていない。
「うー…はい…、気を付けます」
ナナメはこちらを見上げながらも、目を細めて顔を赤くしていて
その残酷な所業にヨコはため息をつきながら彼を抱え上げた。
「え、あれ…すみません!?」
ナナメは驚いたように声を出しているが無視をして、人攫いのように彼を抱えたまま階段を駆け上がった。
寝室のドアを開けると彼をベッドの上に降ろし、その頭を掴んで顔を近付けた。
「マジで、ゼッ、タイだぞ?
どんだけ我慢したと思ってんだ…」
本当に、自分以外の誰かにそんな所業をされたらと思うと
自分はどうなってしまうというのだろう。
彼は自分のことを何かよいものであるかのように思っているようだが、
必死に繋ぎ止めようとしているしているのはこちらの方なのだ。
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