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1-60 泣いてもいいけど。
「だからね、俺は今まで…
俺のものになってくれない人のことを好きになっていたんだと思うんです
愛してもらえないからこそ、安心して好きになって
安心して落ち込んで、安心して絶望して…
自分が幸せになるのが、好きな人に愛されるのが恐ろしくて
それなのにヨコさんは全然言うこと聞いてくれなくて」
ナナメはシャツのボタンを外し終えると身体を起こして、髪を解いた。
その所作の一つ一つがあまりにも美しくて、
昨日自分が付けた痕が残る白い肌に頭がクラクラするようだった。
「俺のことなんか、放っておけばいいのに
都合よく利用して、面倒臭いって見放してしまえばいいのに
好きだの愛してるだの、付き合ってだの、
俺のことめちゃくちゃにして、こんなにこんなに、好きにならせておいて
どうしてくれるんですか…」
彼の指が胸の辺りを滑って、軽く爪を立てられて
ヨコはどうしようもなく彼に触りたくなり、その腕を掴んだ。
「……どうしてやるのが正解なのかは俺にはわからん、けど、
お前のこと、幸せにしたいと思ってる」
ナナメはため息のように甘い吐息を零し、睨むように目を細めた。
ヨコの腕を掴み返し、ちゅ、と掌に口付けながら見下ろされると
自分の身体が自分のものではないただの熱い塊になってしまったような
妙に息苦しくてもどかしくて仕方ない感覚に陥る。
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