とうに正月など過ぎ去ってしまったが、 官能小説界隈では新年会と称して作家や出版社を集めたパーティが行われる。 ナナメが官能小説家"五虎七瀬"としてデビューしてからずっとお世話になっている出版社もまた参加していて ナナメも毎年呼ばれていた。 別の出版社でも書いている作家はいるが、時々単発で短編を頼まれることはあっても ナナメは基本的にこの出版社一本であった。 理由は、まあ面倒くさいからというのが一番だが 大して実績のない自分を拾ってくれた所であるし、今や出世頭になってしまったナナメを会社側もなかなか手放したくはないのだろう。 「七瀬さん〜」 会場であるホテルのロビーへ入ると スーツ姿の長身の男がこちらに手を振ってくる。 彼はナナメの担当編集である袖野だ。 この一連の受賞フィーバーも彼の手腕によるところが大きいといえよう。 「うっわ、七瀬さんがスーツや」 そんな恐ろしく仕事のできる男は、いつもと変わらない態度で ナナメの姿を見るや否やわざとらしく驚いてみせている。 仮にもホテルでのパーティだ。 ナナメは一応一張羅のスーツを引っ張り出してきて髪も１つにまとめて整えてきた。 袖野とは普段はジャージで会うことが多かったし、まるで友達のように弄られて ナナメは苦笑しながら腕を組んだ。 「ドレスで来ればよかったです？」 「それはそれで似合いそうで怖いわ」 袖野はケラケラと笑った。 「さて、七瀬さん。 今日はめっちゃ挨拶回りしてもらいますわ」 「ええ…怖いなぁ」 連れ立って歩きながら袖野は細い目をさらに細めて笑った。 なんとなくそんな気はしていたのだが、早速先が思いやられる。