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2-15 社畜のご帰還
会社を出ると、ヨコは変に早足になりながらも帰路を急いだ。
大きな山場を越え、
もう何も我慢しなくていいんだという解放感で
へとへとに疲れていたはずなのに、
何故だかテンションが上がり無駄に走ったりした。
クライマーズハイとかいうやつだろうか。
無論死んだ表情筋には反映されないが。
ここ暫くは深夜に帰宅することが多かったためか、日付変更線のこちら側での帰宅は新鮮ですらあった。
「ただいま!」
ドアを開け小学生のように叫ぶ。
しかし家の中はシーンとしていた。
ヨコは靴を脱ぎ捨てネクタイを緩めながら二階へ向かった。
階段を2段飛ばしであがり、ナナメの部屋をノックもせずに開け放った。
「ナナメ!」
叫んだが、その先は暗がりだった。
彼の姿はない。
「……いねえ」
ヨコは呆然とつぶやき、すぐに隣の部屋を開けた。
だがそこもまた暗がりであった。
ヨコはひとまず自分の部屋に鞄やジャケットを投げ捨て階段を降りる。
なんだか焦らされているようで余計気持ちが逸ってしまう。
リビングか?と廊下を歩き、突き当たりのドアを開けようとした時水の音が聞こえ踵を返した。
「そこか!」
獲物を発見したように叫び、ドアを開ける。
そこは風呂場と洗面台がある部屋だ。
脱衣所には電気が煌々と灯っていて、確信に繋がってしまうと
ノックもせずに、風呂場と脱衣所を仕切る磨りガラスを割りそうな勢いで開いた。
「うわっ!?」
ナナメはそこにいた。
目を見開き、突然現れたヨコを見上げる。
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