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2-21 単純かつ不穏な背景

「七瀬先生も今日は雰囲気違いますね」 「ああ…、スーツ評判悪かったんです…忘れてください」 七瀬は恥ずかしそうに眉根を寄せて首を傾けた。 ぐぁ!と内なる自分が衝撃を受けた。 か、か、かわい〜!なんだその表情!えっろ! などと考えていることを微塵も表情に反映させず愛想のいい笑みを浮かべる。 「似合っておられましたよ…初々しいというか…」 「あはは、袖野さんには"高校生みたい"って言われちゃいました 俺もう30なんですけどね…」 確かに彼は顔立ちも整っているせいか年齢よりもかなり若く見える。 学生でも充分通用しそうだ。 スーツが似合わないとか男として絶望的ですよね、と七瀬は困ったように笑っていて 久々に沸き上がる熱く甘い想いに打ちのめされる。 これはちょっと、本気でやばいかもしれない。 會下は自分の中でざわざわとなる感情についに支配されて思わず彼を見つめ続けてしまう。 「…會下先生…?大丈夫ですか?」 無反応でぼーっとしている會下を不安気に七瀬は見上げてくる。 「どこか具合でも…」 はっとなり會下は慌てて笑顔を貼り付けた。 心配そうな眼差しを向けられている。 「い、いや…あ、そうなんですよ… 慣れない電車で少し酔ってしまったみたいで」 會下はわざとらしく眉間に皺を寄せ溜息を零した。 「え、それは大変!やっぱり座ってください」 七瀬は手帳を鞄に押し込めると席を立ち、座るように促した。 「これは申し訳ない…ではお言葉に甘えて」 七瀬と入れ替わり會下は座席に座った。 すれ違った時、彼の髪の毛がふわりと揺れてシャンプーの香りが鼻を掠め會下は大層幸せな気分になり 思わずにやけてしまいそうで慌てて具合の悪いふりをした。

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