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2-24 単純かつ不穏な背景

「栗崎さん絶対課長のこと狙ってるよなー 昨日もめっちゃ話しかけてたし」 ミナミの言葉に雨咲はぴくりと自分のこめかみが引き攣るのを感じた。 「それは本当ですか?」 「おん。えー真壁さんってえ〜お休みの日って〜何されてるんですかぁ〜 って」 再び物真似をするミナミに、悔しくも映像が浮かんでしまって 彼女がベタベタと真壁に触っている姿を思い浮かべると 雨咲は自分の中の普段押さえている部分が沸々と沸騰し始めるのを感じた。 「そりゃぁ真壁くんは爆モテするわな」 裾川は奥方が作ったと思しき弁当を食しながら、面白そうに笑っている。 爆モテ、という言葉に雨咲は確かにと思わざるを得なかった。 あんなに優しくて気遣いも仕事もできて、顔も綺麗で、足も長くて そんなの誰だって好きになってしまうに決まっている。 だから自分がこんなにも色ボケしているのは仕方がないことなのだ。 「……あめちゃん…?」 雨咲が折りそうな勢いで箸を握り締めていると、ミナミが不安げな声を出した。 「ミナミくんや、雨咲ちゃんにはあんまこういう話しない方がいいかもだ」 「え?どういうことっすか?」 なんとなく察してくれているらしい裾川は苦笑していて、 ミナミは本気でわかっていなさそうにこちらの顔を覗き込んでくる。 「なんか怒ってる?なんでなんで?」 「もういいです」 雨咲は弁当の残りを掻き込み、支度を終えてさっさと席を立った。 このボンクラ共に弄られてしまうとまた余計な諍いが増えそうであったし 自分でもこの複雑な感情の処理の仕方がいまいちわかっていないのだ。

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