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2-30 レッツゴー眠らない街

「う…うわ…」 雨咲はトートバッグを両手に抱えながらも、 すれ違うド派手な女達や鋭い目付きの男達の存在に恐怖しながらも なんとかその背中を捉えていた。 一体彼女はなんだってこんな所にやってきたというのだろう。 真壁が居ないのを良いことに、やってきていたのだとしたら… 雨咲はそんな風に考えてしまうと、帰りたくなっていた気持ちよりも もしもいかがわしい現場でも抑えられたら勝ちでは、という謎の使命感に襲われる。 「お、お姉さんかわいいね〜?」 彼女とすれ違った男が、勢いよく踵を返して話しかけに戻ったが 彼女は冷たくあしらっていて雨咲は思わず息を呑んだ。 ナンパだよね、あれ…、 雨咲は生まれてこの方ナンパなどされたことがなかったし そういうことをしていそうな人種とはなるべく関わらぬよう努めていたので 初めて見る生のナンパに思わず心臓がどきどきと騒いでいた。 段々とよりディープな所へ入っていく姿に、 雨咲は確信めいて歩みを進める。 「ねえねえ」 と、不意に腕を掴まれ雨咲は思わず振り返った。 金髪で、派手な柄シャツを着た男が雨咲の腕をがっしりと掴んでいて 何が起きたかわからずその男を見上げた。 「あらら、お母さんでも探しに来たのかなぁ〜?」 男はニヤニヤと笑いながら雨咲を見下ろしてくる。 雨咲は思わず進行方向を見て、尾行していた背中が消えてしまっていることに絶望した。 「ねえ君いくつ?迷子にでもなったの?」 目的を見失ったことに加え、 この恐ろしい街のど真ん中に置き去りにされてしまったことにようやく恐怖を感じてしまう。 普段は男なんか全く怖くないのに、顔を近付けられると思わず逃げ腰になってしまう。 「は、離してください…」 「危ないから送ってってあげるよ」 「結構です…!」 腕を離してもらおうとするのだが、男は全く動じない。 通行人はみんな自分のことに夢中で誰も助けてくれなくて、雨咲は泣きそうになった。

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