全く変な子に懐かれてしまったものだ。 切りっぱなしのショートヘアーも すっぴんに近いその顔もあまり気を使っていないのが伺えて この街では逆に浮いているぐらいだ。 地味なスーツ姿と眼鏡も相まってぱっと見は本当に中学生か、頑張っても高校生くらいに見える。 彼女は網を挟んで向かいの席で怪訝な顔をしている。 「なんですかこれ…」 「何って焼肉ですよ。 でも確かに焼肉屋さんにしてはおしゃれですよねー 今時〜って感じ」 「そうではなくてなんで私とここへ？」 「えー？だって1人じゃなかなか入り辛いですし」 ナナメが微笑むと、彼女は目を細めてどこか不機嫌そうな顔をした。 電車に乗り込むぐらいからなんとなくそうなのではと思っていたが、 案の定彼女はこんな街にまでのこのことついてきて まいたかと思えば案の定絡まれていて、結局助ける羽目になってしまった。 まさか自分が女性に後を尾けられるとは夢にも思わなかったしその理由もよくわからないままで 得体の知れない女と2人で焼肉など暴挙でしかなかったが あの場で騒がれると不利なのはどう考えても自分だったし、 話題のおしゃれ焼肉店なだけあって客も多く見えるため 他の場所よりはいくらか安全だろうと踏んでのことだった。 「それともお肉嫌いでした？」 「別に…好き、ですけど…」 「ならよかった。はいどうぞ」 彼女は居心地が悪そうに口を尖らせていて、 ナナメは焼き上がった肉を彼女の皿の上に乗せてやった。 「…で、名前ぐらいは教えて頂けるんでしょうね？」 ナナメが聞くと彼女は皿の上の肉を見つめながら、身体を縮こめていて そうされるとますます彼女が小さく子どものように見えてしまう。 本当に中学生だったらどうしよう、と内心不安もあるのだが。 「……雨咲、礼美、です」 「れいみさん、ですか」 その名前はやっぱり聞き覚えがないし、思い当たる節もない。 ましてや尾行される理由など。 「あのいつから…気付いてたんですか…？ 私がついてきてるって…」 「うーん。電車に乗る前くらいかな」 「…それでわざとここで降りたんですか？」 「いいえ、元々ここで降りる予定でしたよ。 もしかしたら諦めてくれるかなーって思って ちょっと裏の方に入ってみたりはしましたが」 ナナメは次の肉を網の上に寝かせて、皿に盛った肉を箸で摘み頬張った。 本来ならば1人で寂しく牛丼でも洒落込むかと思っていたし、 気になってはいたもののおしゃれな雰囲気すぎて 1人ではちょっと入り辛かった焼肉店に来れたのでよしとしよう。