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2-35 レッツゴー眠らない街
ナナメは思わず幸せな笑顔を浮かべてしまっていると、
彼女は無表情のままこちらを見つめていた。
「あなたは?好きな人いないの?」
ナナメの言葉に彼女は顔を赤くして俯いてしまった。
意外と可愛い反応をする彼女に、ナナメは何か参考になるかななどとこんな時でも下賎な才能が顔を出してしまう。
「い…います、けど…」
「そうなんですね、どんな人ですか?」
「………すごく、格好良くて、いつも助けてくれて…
みんなから頼りにされてて…それなのに、
私が落ち込んでるとすぐに気付いて、頭を撫でてくれたり、
仕事も、私のせいで大変になっているのに、気にするなって…言ってくれて…」
「ほう。それでそれで?」
「で、でも、私…人を好きになったの、初めてなんです…
それで…どうしたら良いかわからなくて…」
彼女はそわそわとして、どこか居た堪れなさそうだった。
どうしたら良いかわからない、確かにその気持ちはわからないでもない。
ナナメは彼女の空いた皿に焼き上がった肉を乗せてやった。
「…気持ちを伝えたいと思ってる?」
「……わかりません…、その方には、彼女がいて
その彼女がどうか意地悪で、嫌な人でありますようにって思ったのに…
実際は、き、綺麗で、優しくて良い人で、…私…何一つ勝ってなくて…」
礼美は泣き出しそうに顔を歪め、新しく乗せられた肉を掻き込み始める。
辛い思いをしているらしい彼女の部活帰りのような食べっぷりを観察しながら、
なんと声をかけてあげればよいのやらと思考する。
「…ほん、本当は…彼をくださいって言いたい…
あなたはなんでも持ってて、わたしには何にもなくて…、
だから彼だけは私にください…って…」
彼女はついに泣きながら、肉を頬張り言葉を紡いでいて
ナナメはついついそのお世辞にも上品とはいえない風体を眺めてしまった。
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