122 / 236
3-1 あなたの隣
人生で一番最低だった時、
目に映る景色はモノクロで
世界中が敵だらけのような気がしていた。
俺はなんでここにいるんだろう。
日が差し込んで天井が四角く窓の形に切り取られているのをぼーっと見上げ、ヨコはため息を零した。
広いベッドから起き上がり、のろのろと部屋から出る。
まるで自分の家のように勝手知って使っているが、ここは人様の家で自分はただの居候のようなものなのだ。
なぜこの家なのかというと、正直よく覚えていない。
かつて暮らしていた家はまだ契約しているものの、
あの部屋にいるだけで吐き気を催すため帰り辛くて結局ここに居座ってしまっている。
階段を降り、リビングのドアを開ける。
リビングの奥のキッチンに人影があり、
その背中は何か一生懸命作業をしているようだった。
「…ナナメ…さん…?」
「ひゃあ!?」
この家の持ち主ナナメはびくりと身体を強張らせ、恐る恐る振り返った。
「び、びっくりしたぁ…えへへ…おはようございます」
ナナメは苦笑しながらも何故か肩を竦めた。
彼がキッチンに立っているところは滅多に見なかったので、不思議に思いながらも彼の手元を覗き込む。
「何をしてるんですか?」
「え…いやその…朝ごはんを作ろうとですね…したんですが…」
「まさか洗剤で米を洗ってしまったとか…」
「さすがにそこまでバカじゃないですよ!」
と言いつつも彼の手元には何やら得体の知れないものが転がっていた。
ヨコはため息をつきながらも彼を押しのけるように肩に触れる。
「俺がするので、座ってて…ください」
ともだちにシェアしよう!

