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3-3 あなたの隣
大変失礼な話ではあるのだが、
そんな風に同居人の顔をまじまじと見たことがなかったので出社してからもあの顔が頭から離れなかった。
そうやって思い出して何故思い出すのかともやもやして忘れようと努力するとだんだんどんな顔だったか記憶が曖昧になって躍起になってまた思い出そうとしてしまう。
そんな意味不明な思考の1日を過ごしたせいで、自分の作った食事を食べているナナメを延々と観察してしまうのだった。
今まであんまり考えたことはなかったのだが、こうして見てみると彼は世間一般でいうところの美形、であった。
白い肌に長い睫毛。大きな瞳、形のいい唇。ふわふわと跳ねる少し長めの髪の毛とも相まって女性にも見紛う程だ。
だから自分は特に意識もせずに彼に触れてしまったのかもしれない。
「…あのう……俺…また何かしちゃいましたか…」
ナナメは箸を止めて不安げにこちらを見つめてくる。
そう言われるとなんと返していいかわからず内心焦っていたのだがヨコは自分の止まっていた箸を再開させた。
「……いや、別に」
「そう…ですか?」
じろじろと見てはいけないとわかっているのだが、気になって食事の味が全くわからない。
どこか居心地が悪そうに箸で煮物をつついている彼をちらりと見ては、その細い指先やら綺麗に切り揃えられた爪やらを観察してしまって
一体どうしてしまったのだろうと自分自身に問いかける。
そして強情な自分は、少し余裕が出てきたんじゃないのか、などというのだ。
今まではひたすら苦しくて、溺れているかのように目の前のものにとりあえず縋っていたのが
今はゆっくりとであるが1人でも呼吸が出来るようになって、やっと縋っているものがなんなのかを見る余裕が出てきた。
多分そんな感じなのだろうと。
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