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3-4 あなたの隣
「…ヨコさん、あの…俺、無類のカボチャ好きでしてヨコさんのカボチャの煮物は最高だと思うのですよ」
ナナメはカボチャの煮物を箸で持ち上げて、おいしすぎる…!と言って食して見せた。
その微笑みをぼけっと眺めてしまい、何も反応できずにいるとナナメは複雑な顔で俯く。
それを見て、場を盛り上げようとしてくれていたということに気付きヨコは慌てて口を開いた。
「そっか」
その一言で終わってしまい、ナナメはこくんと力なく頷いた。
「…はい…そうなんです…どうでもよかったですね…」
「いや、そんなことはない…ほ、他に好きなものは?」
「いいです…無理しないでください。もう黙りますから…」
「無理とかじゃなくて…、今後の参考にするから…」
「…今後……」
なんとか会話が繋げられ、ヨコが安心しているとナナメは複雑な表情のまま首を傾けていた。
無表情の中に憂いがあるようなそんな顔でいられるとなんだか美しい人形のようだ。
やがてナナメは目を逸らしながら
「……おむらいす…」
そうぽそりと呟いた。
どこか恥ずかしそうに眉根を寄せられ、その星空のような瞳に見つめられると
ヨコの思考はまたもやショートした。
おむらいす…だと……?と。
普段のヨコであればそんな軟弱なカフェメニューをチョイスするなと内心苛立ったことであろう単語であった。
そのせいなのか否かヨコは何故か立ち上がっていた。
「…え?ヨコさん…?」
箸を持ったまま立ち上がるという奇怪な行動にナナメは驚いたように見上げてくる。
ヨコは自分でも意味がわからず呆然と彼を見下ろした。
「オムライス…ケチャップで味付けしたライスを、オムレツのような鶏卵で包んだ米飯料理…」
独り言を呟いていると、ナナメは瞬きをしながらも、す。すごい!ヨコさんウィキペディア!と謎の持ち上げ方をされヨコはしずしずと着席した。
ツッコミ不在のカオスな空間が出来上がってしまい、一体何が起こっているのかと不可解に思いながらもヨコはなんとか頷いた。
「…今度作る…」
自分は一体どうしてしまったというのか。
余裕と思ったのは勘違いで悪化しているのかもしれない。
「本当ですか!わーい」
一方ナナメはさほど気にしていないようで、嬉しそうに笑った。
その笑顔をまた凝視してしまうヨコであった。
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