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3-5 あなたの隣
ここ最近、同居人のことで頭がいっぱいになって
なんだこれ、と焦るような時間が増えている。
彼はくるくると表情を変えるし、よく喋るし
正直言って、可愛い。という部類に入るに違いない。
しかしいくら可愛いといえど相手は男であり、
何故かセフレという関係になってしまっているもののそれ以上先に行けるのかというと甚だ疑問なのである。
そして何故そんなことを考えてしまうのか、と自分自身の思考を疑ってしまうヨコであった。
家路をとぼとぼと歩きながら、手に携えたスーパーの袋にはちゃっかり卵が入っていて
オムライス、という単語が脳細胞に描かれている。
ナナメさんが好きって言ったから作るのかよ、と自分に呆れて物申してみたりする。
「…安かったから買っただけ…」
そして誰にともなく言い訳しながら、はぁ、と溜息をこぼす。
現代社会のストレスがなにかしら脳におかしな作用をもたらしていると思い込みたい。
彼にもいつか追い出されるような日が来るのだろうか。
ここにいること自体が異常なはずなのに、そんなことが頭を過ぎる。
別に人が嫌いなわけでもない。
今までだって自分なりに愛情を持って接してきたとは思っている。
無愛想なのは仕方ないとはいえ、誰かと意見が食い違うこともぶつかることも生きていれば当然あると理解していたし。
それなのに、どこで間違ったのか。
今は少しだけ、誰かを信じようとすることが怖い。
「……。」
ぐるぐるとまた嫌な記憶を思い出してしまって、なんとなく足取りが重くなり
自分の今の状況も酷く滑稽に思えた。
何を信じればいいのかも曖昧で、どこに向かって歩けばいいのか
正しい選択をしてきたはずなのに不安になって、揺れてしまう。
「…ヨコさん!」
不意に聞こえてきた声が、重苦しい脳内に突き抜けていった。
振り返ると、同居人の姿があった。
どこか息を弾ませながら、頬も染めている。
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