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3-6 あなたの隣

「姿が見えて、追いかけて、走ってきちゃいました」 彼はそう言って嬉しそうに微笑んだ。 珍しく出かけていたらしい彼は家での絶望的なジャージ姿とは違い身綺麗にしていて そのせいなのかは分からなかったがなんだか眩しく見えてヨコは思わず目を細めた。 「なんか、道端で会うの変な感じですね」 ナナメはいつも通り機嫌が良さそうに微笑んでいて、 そんな彼の隣を歩きながら 何故そうしたいのかの理由も良く分からず彼が無防備に晒す美しい横顔を観察していた。 歩くたびに揺れる少し長めの髪の毛も、長い睫毛も、白い肌もなぜか目が離せなくて。 「あれ、ヨコさんも卵買っちゃったんですね」 ナナメはヨコの買い物袋を覗き見ては、呟いた。 「実は俺もなんです」 彼は手に持っていたビニール袋を持ち上げてみせては肩を竦めた。 そもそも、なんでこの人は当たり前のように隣を歩いてくれるんだろう。 「ふふ、卵パーティですね〜」 そんなことを言いながら何故か嬉しそうに笑う彼が本当に不可解なのだけれど。 そんな彼に、触れたいなどと思う自分が一番不可解だった。 ナナメはいつも通りにどうでもいい話をしながら、 同じ家に向かって歩くことを、ただただ当たり前のように許してくれていて そんな彼の隣を歩きながら、ずっと心を重たくしていた感情が溢れ出てきて思わず足を止める。

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