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3-8 悩める官能小説家
才能と現実を天秤にかけるような事を
強いられている。
無理矢理書き上げた仕事が映し出された画面を前に、ナナメはぽけっと口を開けて天井を仰いでいた。
どうにか形にはしてみたものの、なんとなく自分的に納得がいかない。
賞を連続受賞し、あんな華々しい紹介のされ方をした作家の次回作がこれなのだろうか?と思うと余計にモヤモヤしてしまう。
「うーん……ダメだぁ…やっぱりもう少し待ってもらおう…」
ナナメは担当編集に連絡するべく、言い訳を考えることにした。
こんなにも幸せで満たされているのに、
自分の才能はそれをまるで許さないようだ。
今までは自分の創作の原理原則など追求した事はなかったが
どうやら今予想していることは確信に近いらしい。
ぐずぐずに落ち込まないと書けないなんて
つくづくややこしい才能を持ってしまったものである。
それに基づいて考えると、今までの輝かしい功績は
人生の躓きと比例しているということになり色々複雑ではあるが。
「…でもどうにかしないとまずいなぁ」
原理原則がわかってきていても仕事は仕事だ。
大衆受けのしない下賎な商売とはいえ、そこに情熱を傾けている人も
自分のような不出来な人間を支えてくれる人も期待してくれている人もいる。
ありがたいことに必要とされているのであればそれには応えねばならない。
だからといってようやく得たものを自ら手放していくようなことは今の自分にはできない。
であれば、新たなやり方を開拓していくしかないのだ。
ナナメは頭を悩ませ、唸りながらも
ひとまずは担当編集の袖野氏宛に心苦しいメールを作成し始めるのだった。
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