131 / 236
3-10 悩める官能小説家
「そや、七瀬さん大丈夫ですか?」
「…え?」
「いやーだいぶ苦戦しとるみたいで
余計なプレッシャーかかっとるんやろうけど」
袖野の言葉にヨコは眉根を寄せた。
最近ナナメが何か仕事で大変そうなのは感じてはいたのだが
具体的なことは知り得なかったのだ。
「…あいつそんなに大変なんですか」
「うーん、まあ。賞取って大注目やからねえ…
今までは結構あっけらかんとしてたんやけどね。
あの人時々妙に自信無くす時あるやん?」
「…賞…?」
袖野の分析には同意せざるを得なかったが
初耳のワードにヨコは更に目を細めた。
「こういう商売って命削ってやっとるような部分もあるからなぁ
まぁ真壁さんが一緒におる限り孤独死はないやろうけど」
ナナメがそんなに悩んでいるとは知らなかったし
そんなに大変なものを背負っている事も知らなかった。
肩を竦めて苦笑している袖野を見上げながら、ヨコは
あいつのこと何にも知らないんだな、と不意に焦りのような気持ちが出てくるのだった。
思えばナナメはよく喋る割に自分のことはあまり話さないし
仕事だってついこの前まで内容すら知らなかったのだ。
「ま、あんま焦らずってお伝えください」
「…分かりました。ありがとうございます」
彼には相当世話になっているのだろうなと思いながらも頭を下げておいた。
事情を知ったところで自分にできる事なんてそんなに無いのだろうけど、
せめて栄養の付くものでも食わせてやらねばと決意するヨコであった。
ともだちにシェアしよう!

