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3-12 悩める官能小説家

「…ナナメ…大丈夫か…?」 「…ふぇ?」 ナナメは思わずハッとなり顔を上げた。 目の前にいるヨコは怪訝そうにこちらを見つめている。 米を掴んだ箸を持ち上げたまま意識を飛ばしていたらしい事に気付き、ナナメは慌てて笑顔を取り繕った。 「え…えへ、大丈夫です…ちょっと考え事してましたぁ」 止まっていた箸を動かして、食事を再開させる。 折角のヨコさんのご飯なのに何やってんだろう、と自分を叱咤しながらも 恥ずかしくてあんまり彼の顔を見れずに、その素晴らしい食事を見下ろした。 「…あんま根詰めるなよ」 ヨコは静かに呟き、それ以上は何も聞いてこなかった。 彼はいつも、余計な事を言わずにただ見守ってくれて だけど多分助けを求めれば全力で応えてくれる。 今のナナメにとってはそのスタンスが有り難くもどこか申し訳ないような気持ちだった。 「……ヨコさんは、何でこんなに料理が上手なんですか?」 全然関係ない事が口から溢れていってしまう。 ヨコは涼しい顔で焼き魚の身と骨を切り離す作業をしている。 「…さぁな…鍵っ子だったし…作るのが当たり前というか…」 しょうもない質問に答えてくれる彼だったが それだけの理由で果たしてこんなに上手になれるものだろうかと不思議に思うナナメであった。 「そっか…ヨコさんはすごいなぁ…なんでもできて…」 料理だけでなく彼は仕事もできるようだし、 考え方も所作もスキルも年齢よりもしっかりしているように見え 毎度の如く彼のハイスペックさと自分の行き詰まりを比較して恐れ慄いてしまう。

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