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3-16 レッツゴー乙女チック!

最初からきっと、勝ち目なんてなくて。 そんなことはわかっていたって キッパリはっきりとフラれてしまったって そんなにすぐに切り替えられるほど人間は、単純には出来ていない。 良くないことだと重々分かっていても、雨咲は電柱の影から赤い屋根のお家を睨んでいた。 こんなに諦めの悪い人間だったとはと自分でも呆れているほどだ。 彼の気持ちを知ったとて、 いつもすぐ近くにいるせいで、日に日に好きにならざるを得ないわけで 彼の恋人には、大事にしてくれる人がいつか現れる、だとか 幸せになる、だとかそんな風に言われたけれど とてもそんな気にはなれないのだった。 「…真壁課長と暮らせたらなぁ」 雨咲は絶対に実現不可能な事を言ってしまって、目を閉じ、 せっかくだから想像してみる。 朝彼より早く起きて、ピンク色のエプロンを付けて朝ごはんの支度。 課長は朝、パン派かな?ご飯派かな? どっちにしたって、お前の飯食うと元気が出るーなんて言われたりして。 お弁当ももちろんちゃんとつくって、行ってらっしゃいのキスをして…。 来るはずのない未来。 雨咲は自分の顔を両手で覆うように溢れそうな涙を拭った。 日はすっかり落ち、春も近いのに空気は冷たい。まるで帰れと言われているようだった。

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