137 / 236
3-16 レッツゴー乙女チック!
最初からきっと、勝ち目なんてなくて。
そんなことはわかっていたって
キッパリはっきりとフラれてしまったって
そんなにすぐに切り替えられるほど人間は、単純には出来ていない。
良くないことだと重々分かっていても、雨咲は電柱の影から赤い屋根のお家を睨んでいた。
こんなに諦めの悪い人間だったとはと自分でも呆れているほどだ。
彼の気持ちを知ったとて、
いつもすぐ近くにいるせいで、日に日に好きにならざるを得ないわけで
彼の恋人には、大事にしてくれる人がいつか現れる、だとか
幸せになる、だとかそんな風に言われたけれど
とてもそんな気にはなれないのだった。
「…真壁課長と暮らせたらなぁ」
雨咲は絶対に実現不可能な事を言ってしまって、目を閉じ、
せっかくだから想像してみる。
朝彼より早く起きて、ピンク色のエプロンを付けて朝ごはんの支度。
課長は朝、パン派かな?ご飯派かな?
どっちにしたって、お前の飯食うと元気が出るーなんて言われたりして。
お弁当ももちろんちゃんとつくって、行ってらっしゃいのキスをして…。
来るはずのない未来。
雨咲は自分の顔を両手で覆うように溢れそうな涙を拭った。
日はすっかり落ち、春も近いのに空気は冷たい。まるで帰れと言われているようだった。
ともだちにシェアしよう!

