144 / 236
3-23 あめあらし。
「ナナメさんは普通に本気だと思うよ。
あの人ああいう人なの。
自分にとって不利益なことばっかり選んでやっちゃうのね。
本当、人の気持ちも知らないくせにさ…残酷な優しさがある人」
しずかは壁際にずらりと並んだ服達を掻き分けながらそう呟いていて
そのどこか寂しげな背中を雨咲はつい見つめてしまった。
背中の開いたドレスを堂々と着こなしている様は、本当に自分とは対極なのに
その言い草には、どこか共感してしまうものがあった。
ここに来てすぐ、どんな関係かと聞かれ
ナナメは堂々と、わたくしの恋人のことを付け狙ってる小娘で〜す、などと紹介していたものだ。
女友達ほど怖いものはないのでてっきりボコボコにされるのかと怯え竦んだものだが
自信ないみたいなので、なんて言って。
「そうですね…もっと嫌なこと言ってくる人だったら…
よかったなぁ…」
嫌いになれたらいいのに。心底恨めるような。
雨咲はまた泣きそうになって、折角してもらった化粧が崩れてはいけないと唇を噛んだ。
「……れいみちゃんの好きな人ってどんな人?」
しずかはこちらに背中を向けたままそんなことを聞いてくる。
好きな人、その言葉だけで勝手に真壁の顔が浮かんで頬が染まってしまうのだった。
「…優しい、です。いつも私のこと助けてくれて励ましてくれる。
格好良くて、それから一途なんです」
彼のことを思うと心が暖かくなって、同時に重くなる。
あんなに素敵な人だから、抱えきれない、みたいに。気持ちがキャパオーバーしてしまっているように。
「ナナメさんはああ言ったけど、私ちゃんとフラれてるんですよ?
大事にしたいって、あいつじゃなきゃ俺がダメなんだーって
そんなこと言ってて、ね…羨ましいなって…
でも、やっぱりそんな風に恋人を大切に思ってるような人だから…
この人の事が大好きだなって…」
泣くまいとしていたのに、雨咲はやっぱり涙を溢してしまって。
ナナメの前でも、こんな見ず知らずの人の前でも泣いたりして
本当に自分のみっともなさに呆れてしまう。
ともだちにシェアしよう!

