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3-28 美しい横顔
「何?辞めるの?」
波留子の鋭い眼光に見下ろされ、ナナメは苦笑した。
「ええっ小説?勿体無い…!」
「俺だって出来れば続けていたいけど、なんていうか…」
「彼氏に反対されたとか?」
「いえいえ、その逆です。
……寧ろ逆だから、というか…」
不思議そうな顔をする2人に、ナナメはため息をつきながらカウンターの上の自分の手を見下ろした。
とはいえ彼は何も悪くなくて、全部自分が悪いのだ。
官能小説家としても恋人としても、人としても、覚悟が足りなかっただけ。
実家を飛び出してからずっと、自分は逃げて、逃げ続けて
たまたま生き永らえていただけにすぎなくて。
「ま、よくわかんないけど。あたしは心配してないわよ。
そう言ってなんやかんやヘラヘラ〜って乗り越えるんでしょあんたは。
なんかうまく行っちゃいました〜って」
「えー?俺そんなにヘラヘラなんてしてませんし」
「してるわよ、ねえ?」
「してるしてる。人を振り回す天才だからナナメちゃん」
「なんですかそれ…人聞きの悪い…」
ニヤニヤ笑ってくる彼女達に、全く自分はどう見られているのだろうと思うのであった。
「お待たせー」
奥からようやくしずかが顔を出して、にこにこしながらこちらへやってきた。
やっと終わったのか、と思いながらそちらへ顔を向ける。
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