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3-32 美しい横顔

ナナメはどこか驚いたような顔をして、雨咲を見つめてくる。 「…なんですか?」 「笑ってるなぁと思いまして…」 「そりゃ笑いますよ。ナナメさんが変だから」 雨咲が意地悪く笑うと、彼は苦笑しながらも どこか嬉しそうに上着のポケットに手を突っ込んで 「それはなによりです」 などと言っていて。 怒るでもなく説教するでもなく、ただただそこにいてくれて。 焼肉を食べに連れて行ってくれた時も、今だって 本当は自分の存在は相当に厄介なはずなのに。 顔だって見たくないかもしれない存在なはずなのに。 その美しい横顔をただただ隣で晒してくれていることが、 まるで許してもらっているみたいで。 「ふふ、…あー、そっかぁ…」 雨咲は不意に悟ってしまって、俯きながら頷いた。 自分の思い人はいつも、ダメな部下に手を焼かされて 上からの理不尽に押さえつけられて、会社や社会に磨耗されている。 それなのに強くて格好良い、そんな姿を好きになったのだけれど。 彼はこの人に、いつだって許されているから 理不尽の中でも、あんな風に強くて格好良くあれるのかもしれない。 「課長は…本当に、あなたじゃないとダメなんですね…」 「え…?」 先程は、奪ってやる、なんて息巻いていたけれど 雨咲はどこか、この人ならしょうがないなぁ、という気持ちにすらなっていた。 「ナナメさん……真壁課長のこと、絶対幸せにしてくださいね…」

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