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3-33 俺のせいなのか?
風邪でも引いたのか昨日はくしゃみが止まらなかった。
ヨコは鼻を啜りながらも出社して、いつも通りフロアの端の部署に歩いて行った。
「おはよう…」
すでに来ていた女子社員の雨咲に声をかけると、彼女は顔を上げる。
「おはようございます、真壁課長」
いつも通り無表情に彼女は挨拶を返したが、
眼鏡の向こうの瞳はどこかいつも以上に輝いていた。
ヨコは目を細めて、つい彼女に近付いてしまいその瞼の上にキラキラ光る薄いピンク色を覗き込んだ。
「…なんですか?」
雨咲は怪訝そうに眉根を寄せる。
「いや。なんでも」
肩を竦めながらヨコは自分の席に行き、妙な心地になりながらも
仕事を開始する。
「……ナナメさんって男性だったんですね」
「………。」
ヨコは飛び込んできた言葉の情報処理に時間を要し、
雨咲を呆然と見つめた。
「お……、え…?なん…?」
「ご安心ください。言いふらしたりなんてしませんので」
いつものように淡々と雨咲はそう言っていて、
それが逆に恐ろしくも感じてしまう。
別に隠しているつもりはないのだが、嫌な汗が背中を伝って行くような感じがした。
「ちゃんとナナメさんのこと、捕まえておかないとダメですよ」
「は……はい……」
なんだか不吉なことを言う彼女にヨコは思わず背筋を伸ばしてしまった。
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