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3-36 俺のせいなのか?
幸せにする、だなんて。できるのだろうか。
今まさに何もかも失おうとしている、自分なんかに。
いやいや、やらねばならない。
彼のことを散々繋ぎ止めておいて、今更手放すわけにはいかない。
今まで、本気で好きになって、それを許してくれた人も
自分もそうだと伝えてくれた人も、
居た試しがなかったように思う。
自分なんかを好きになってくれるような人をそもそも選んでこなかった。
それはきっとわざと、で。
それゆえに自分は、どうにか食い繋いで来れたのだ。
終わるものばかり探していた自分は今、
終わらせられないものを前に途方に暮れているのかもしれない。
絶望の淵で書いていた頃は、確かに悩んだことも沢山あるけれど
もっとベクトルの違う悩み方をしていた気がする。
幸せだから、なんて言い訳して単純に才能が枯渇しているだけなのかもしれない。
それともやっぱり身に余るものを欲した結果なのだろうか、とため息すら出る。
「……贅沢な悩みかな…」
電車に揺られながら、ナナメは目を細めた。
昼間の微妙な時間の電車は、お年寄りや子連れといった乗客ばかりだ。
普通なら会社勤めで平日のこんな時間は建物の中にすし詰めになっているのだろうし
電車なんて満員電車がザラなのかもしれない。
そう思うと自分は優雅なご身分だなと苦笑したくなる。
とはいえ、自分だって苦悩がないわけではない。
打ち合わせということで袖野に呼び出されてしまい、どう言い訳
したものかと頭を抱えてしまう。
スランプだとは彼も理解してくれて、まーしゃあないね、とは言ってくれてはいるのだが
さすがにずっとこのままというわけにはいかないだろう。
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