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3-37 やるべきこと
「怒られるのかなぁ。嫌だなぁ…」
小さな声で独り言を呟いてしまいながらも、ナナメは重たい足取りで電車から降りた。
出版社を訪れ、エレベーターに乗り特選Novelsの編集部がある階へとやってきた。
相変わらず会社の端っこの1番暗いところに追いやられている編集部だったが、
ナナメにとっては実家のような安心感すらあった。
ドアをノックして、開くと数人の男達が机に向かって仕事をしているようだった。
「こんにちは……」
ドアの隙間からペコリと頭を下げると、1人の男が机から立ち上がり笑顔を向けてくる。
「七瀬先生ー」
彼は人懐こい笑顔を浮かべてこちらへと走ってくる。
「前担さん!お久しぶりです」
「僕はいつも七瀬先生の読んでるからお久しぶりな感じしないですけど」
「ええ…っ…なんか嬉しいです…」
「ふふ。当たり前じゃないですか〜」
ふくよかな体型も相まって穏やかで優しそうな印象を受ける男は、部屋に招き入れてくれた。
彼は袖野に引き継がれる前、ナナメを担当していた編集者だった。
「お疲れ様ですー」
部屋内にいる他の社員も軽く頭を下げてくれて、ナナメは丁寧にお辞儀をした。
「七瀬先生は相変わらず可愛いですなぁ」
「バカ袖野っちに怒られんぞ」
おじさん達はニヤニヤしながらじゃれついていて、相変わらず仲がいいなぁと思うナナメであった。
部屋の端に、パーテーションで区切られ椅子とテーブルが置かれた簡易的な打ち合わせスペースがあり
そこに案内してもらった。
「ちょっと待っててくださいね、
袖野さん今別部署に行ってて…もうすぐ戻ってくると思うんですけど」
どうやら袖野は袖野で忙しいようだ。
ただでさえ大変そうな彼を更に待たせてしまって申し訳なさでいっぱいである。
小一時間怒られる事になっても仕方がないのかもしれない。
ナナメはちょっと構えながらも待っている事にした。
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