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3-38 やるべきこと
数分後に現れた袖野は、苦笑しながら頭を下げた。
「いやーすんません、お待たせしました。」
「いえいえ…お忙しい中ありがとうございます」
「こっちの台詞やけどな…」
そういう袖野の隣には見知らぬ女性が立っていた。
パリッとしたスーツを着こなした女性は、雰囲気的に新しい編集部の人、では無さそうだ。
「えーっとこちら…営業の霧島さん」
「初めまして」
袖野に紹介された女性はペコリと頭を下げた。
「どうも…」
営業の方が何の用なのだろうか。
ナナメは怯えながらも頭を下げる。
「今日来てもらったんは、こちらから話があるそうで…」
2人はテーブルを挟んで向かい側に座る。
女性は名刺を渡してくれた。
「はぁ…」
何のことかさっぱりわからないが、まだナナメは怒られることを覚悟しているのだった。
「実は、七瀬先生の“氷溶かす”を改めて出版しようっていう企画が上がっていて。
文芸の方から、今度はハードカバーで」
例のお門違いなしっかりとした文学賞である“セツナ賞”を受賞した小説は、一応は官能小説というジャンルであった。
特選Novelsのレーベルで文庫本は出版されていたが、確かにこういう話が来てもおかしくはない。
ナナメはどこかホッとしながらも、なるほど…、と頷いた。
「…それはありがたい話ですね」
「ええ、私としてはゆくゆくはメディア化も狙っていこうかと考えてます」
「メディア化…?」
「ドラマとかの原作みたいな感じやな」
想定外のことを言われナナメは、まさかまさか、と苦笑した。
謎に筆が乗って突貫で書いただけのものがそんな事になってしまうなんて想像もつかない。ただでさえ賞受賞ですら信じられないのに。
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