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3-41 やるべきこと
帰り際には、編集部の他のメンバーや編集長からも労いとお褒めの言葉を賜り
ナナメは複雑な心境のまま帰路に着いた。
辞めた方が現実的だと思っている、だなんてとてもじゃないけど言い出せなかったし。
「なんか…すごい事になってるなぁ…」
出版社を出て、駅まで向かって歩きながらも
イマイチ実感が掴めず空を見上げて呟いた。
そもそも一般的な小説家としてデビューしたかったので
こんな流れはありがたいというか、夢、だったはずだ。
官能は好きで書いているわけじゃないが、やっぱり自分のホームだとは感じている。
だからこうしてより多くの目に触れるとなると、いいのかな、という気がしないでもない。
「メディア…かぁ…」
テレビに自分が映るのはやっぱり想像できないし絶対無理だなと思う。
理由はそれだけではないのだが。
だけど自分がそんな風な人間になれるなんて考えもしなかった。
そもそも無理とか選べるような機会さえあるとすら思っていなかったし。
「………。」
ナナメは、ふ、と思い出して立ち止まった。
いつまで頑張ればいいんだろうと思っていた。
ずっとずっと。
いつまで逃げ続ければいいんだろう、とも。
ただただ、認められたかった。
自分は、1人で生きていくし生きていけると、証明したかったはずだった。
だけど結局は誰かにこうして支えられて、甘えて、助けてもらい続けている。
「……あの頃の方が、ずっと1人だったなぁ」
日の落ちかけた空を見上げて、ポツリと溢した。
今の自分は大勢に支えられて生きている。
でも、これでよかったと開き直ってすらいる。
ずっとこうやって生きてみたかったのかも、とも。
自分はどうやったって弱いし、できないことの方が多くて
それは努力ではどうにもならないくらい壊滅的で。
だけどずっと上手にこなせる人が、そばに居てくれて力を貸してくれて、
1人でやらなくてもいいと言ってくれる。
大切だ、と言って、大切に、してくれる。
不意に視界がぼやけて、ナナメは慌てて下を向き目を擦った。
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