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3-42 やるべきこと

「…俺…幸せになっちゃった……」 気付かなかったけど、そう思うとずっと幸せだったのかもしれない。 彼はそれに気付かせてくれた。 そうあってもいい、と分からせてくれた。 ナナメは不意にヨコに会いたくなって、駅に向かって足早に歩き出した。 ヨコさん、あのね、 夢がたくさん叶っているんです。 あなたに出会ってから、それがどんどん加速してるみたい。 ”逃げるな“ 不意に頭の中になり響いた声に、ナナメは思わず足を止める。 “できるようになりなさい” やるべきことをやりなさい。 お前はわかっていない。 自分がやるべきことを。 まるで今言われたように、鮮明に再生される声に ナナメはぐらぐらと視界が揺れる気がした。 ……そうなのかな。 でも、確かにそうかもしれない。 愛されて、幸せになって、何も書けなくなって 力を貸してくれた人たちに、結局何も報えない。 くだらないことをしている暇があるのか? くだらないこと。 それは、 ここじゃない世界を空想すること? ここから抜け出して、 あの向こう側に、行きたいと思うこと? それとも、誰かを、 愛することも? 1人でいるべきだって思ってた。 でもそうじゃなくてもいいって、やっと思えている。 それを信じたいと思うことは、 そんなにダメなことなんでしょうか。

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