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3-43 近くて、遠い。

昼間はあんなに晴れていたはずなのに、いざ帰ろうという時に雨が降ってきて それは時間が経つにつれ強まっていった。 残業もなく早めに帰路につくことが出来たヨコは、 どんな凝った晩ご飯を作ろうかと若干浮き足立ちながらも 電車から降り、通勤鞄の奥底に沈んでいた折り畳み傘を広げて駅から脱出した。 強まる雨足で若干服の裾が濡れてしまうが、もうこの際仕方ないだろう。 いつものように住宅街に差し掛かると、前の方に傘もささずに歩いている人物が見えた。 進行方向が同じで、トボトボと歩いているような後ろ姿にはすぐ追いついてしまって そのずぶ濡れになっている後ろ姿に見覚えを感じる。 薄暗い上に激しめの雨で自信は無かったが、近付くにつれてそうとしか思えずヨコは思わず駆け寄った。 「……ナナメ…?」 隣に並びながらそう声をかけると、その人物はゆっくりと顔をあげた。 雨に濡れた髪が顔を覆っていたが、確かに自分の恋人であるナナメであった。 「ヨコさん…」 「何やってんだお前…!風邪引くだろ!」 彼の方に傘を傾けて入れてやると、ナナメは少し震えながら口元を歪めて微笑んだ。 「えへ…急に降ってきちゃって…」 それはそうなのかもしれないが、だとしてももっと急ぐとかあるだろうと思ったが なんとなく彼が元気がないような気がして、それ以上は責められなかった。 「早く帰るぞ」 ヨコは鞄を小脇に抱えてどうにか傘を持つと、彼の腕を引っ張って歩き出す。 暖かくなって来たとはいえまだ朝晩は冷える。 ナナメの手は冷たくなっていて、早く暖めてやらねば本当に風邪を引きかねない。 「ヨコさん……あの、……」 ざぁ、と雨がどんどん強くなっていく。 ヨコは彼の手をしっかりと掴んだまま、自分ももうほとんどずぶ濡れになりながら足早に歩き ようやく家に辿り着いた。

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