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3-44 近くて、遠い。
玄関に入るとやっとホッとできたが、急いで彼を拭き上げねばならない。
「ちょっと待ってろ」
ずぶ濡れのナナメを玄関に立たせたまま、急いで洗面所へタオルを取りに行った。
戻ってくると、彼は髪から水を滴らせながら靴も脱がずに玄関に突っ立っていて
彼の頭にタオルを被せて拭いてやった。
「すぐ風呂入ったがいいな」
「……はい…」
大人しく拭かれていた彼はようやく顔を上げる。
泣きそうに潤んだ瞳に見上げられると、変な気も起こしそうだったが
なんだか只事ではない気がして。
「…どうした?」
タオルで彼の頭を包んだまま、顔を近付けると
ナナメは少しだけ頬を赤くして、濡れたまつ毛を揺らして目を逸らす。
「………ごめんなさい」
震える声に謝られて、
ヨコは小さく息を吐き出しながらも、タオルの上から彼の頭をぐしゃぐしゃと撫でてやった。
「別に謝ることじゃないだろ…」
ナナメは小さく頷いて、ぐっしょりと濡れた自分の服に触れた。
そしてあろうことかボタンを外し始めるし、濡れて若干肌が透けているのを見つけてしまい頭に血が登りそうになる。
「ちょ、こら!ここで脱ぐな」
「…だってこのまま上がったら床が濡れちゃいますよ?」
「そのまま風呂に行けばいいだろ」
「…でも」
「俺が拭いとくから!そのまま行きなさい!」
廊下を指さすとナナメは少し不満そうに唇を尖らせ、
渋々靴を脱いで風呂へととことこ歩いて行った。
彼の姿が見えなくなると思わず、はぁ、と深いため息が溢れる。
自分が色気大爆発人間なのだといい加減自覚して欲しいものである。
テンションが低い時は尚のこと、である。
「全く……」
とはいえ元気がないのは気になるもので、
何かより凝った夕食を作らねばと改めて決意する他ない。
手早く床掃除を済ませ、台所に向かうヨコであった。
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