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4-19 逃げ出した場所

「ナナメちゃん…!心配しとったんじゃけえ…!」 玄関に入るや否や母親のナナエに抱きつかれナナメは苦笑しながらも、ただいま…、と呟いた。 和服姿の母親は全然見た目も変わらないし 涙を溜めた瞳で見つめてきてはナナメの頬を両手で包んだ。 「ちゃんと食べよるんか?相変わらず細くて折れそうじゃ!」 「食べてますって…ご心配なく…」 寧ろヨコのご飯が美味しすぎて若干太ったような気もするのだが。 「ずっと顔みせんで!ウチ寂しかったんじゃけえね!?」 「う"…苦しいですよ…」 母親はぎゅううっと強めの力で抱きしめてくる。 申し訳ないという気持ちもあれば、やっぱりなんだか居辛さもあって苦笑してしまう。 旅館の裏側に四鹿家の居住スペースがあり、家族達は今も変わらずそこで生活しているようだった。 「うちは戻るけど…ええ?」 ナナコは旅館の方を指さす。 「あ…うん、ありがとうナナコさん」 「まあゆっくりしていきんさい。ナナカちゃんにも後で会うてね」 昔からしっかりしていたとはいえ姉はすっかり女将が板についているようだ。 なんだか自分だけがずっと子どものような感じがしてしまうナナメだった。

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