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4-26 あなたの元へ

「ナナメは…最近仕事のことで悩んでるみたいだった。 多分…プレッシャーを感じてるんじゃないかって出版社の人が言ってて…」 昔のように、何かを期待して押し付けられることが嫌になってしまったのかもしれない。 自分もそれに含まれるんだろうか。 何か知らず知らずのうちにナナメを追い詰めて、いたりしたのだろうか。 「きっと俺のせいで書けなくなってるんだと思う… だけどナナメは、…っ、辞めてもいいって……」 空っぽの部屋はその覚悟を見せつけられているようだった。 自分はただそれを受け止められないだけなのかもしれない。 ナナメはずっとたった1人で、東京で生きてきた。 それを自分なんかが奪ってもいいものなのだろうかと。 「……ナナメちゃんが誰かのために、小説を辞めようとしてるんだったら すごいことだよ」 ナナミは泣き出しそうになっているヨコの顔を覗き込んでくれた。 「愛されてるんじゃん」 そのことにはもちろん疑いはないけど。 このまま愛されていてもいいのだろうかと思ってしまう。 だけど彼のことを手放すなんてとてもじゃないけど考えられない。 なんでも、するのに。 そんなことを思ってしまって、ヨコは自分自身に苦笑してしまうのだった。 そう思うのであれば、全部許さなければならない、だろうか。 自分のくだらない独占欲とか、そんなものよりも 彼が側にいてくれるだけで、 それだけで充分なんだ。 ただ、側に居させて貰えるだけで、 きっと。

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