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4-30 すべきこと

「私はね、行く場所なんてなかった。 この島に嫁いで、帰る場所もない。ここで生きていかにゃあならんかった。 どんなに辛うて逃げとうても…それすらできん… でも私は満足しとるよ。 ここは良い所じゃ。これ以上ないくらい。 …でも、お前にとってそうじゃないなら仕方がない。」 祖母は再びナナメを見ると、口を歪めた。 それは多分、彼女なりに微笑んでいるのだろう。 昔から表情の固かった祖母が少しだけ綻んでいることに、ナナメは驚いてしまった。 「居場所を見つけられたんならええ」 そんなふうに言ってもらえるだなんて思わなかった。 不意に泣きそうになってしまう。 「シチノさん……ごめんなさい… 俺、勝手に出ていって…」 彼女は肩を竦めてまた口をへの字に結んだ。 それはどこか呆れているようで、もう怒っていないよと言われているようでもあった。 「お前はすぐ逃げる。それは昔からの悪い癖じゃ きちんと自分のすべきことをしんさい」 「……すべき、ことって……?」 「自分でようけ分かっとるじゃろ。 向き合うべきことから逃げずに向き合いんさい お前のことはお前しか向き合えんのじゃ」 そんなことを言われ、ナナメは眉根を寄せた。 自分が逃げ癖があるのは重々承知しているし、祖母にそんなことを言われると苦笑でしかない。 昔から似たようなことをずっと言われ続けてきたから。 だけど今聞くと、なんだか少し違う感じ方をしてしまうのだった。

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