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4-32 すべきこと

幼い自分の幻影は消え去り、ナナメは小さく笑ってしまいながら 思わず出てきた涙を拭った。 「そっかぁ……」 ナナメは頷きながら、遠くの海にまた目をやった。 本当はどこへだって行けるのに、 自分を縛り付けているのは自分なのかも。 そんな風に思いながら。 「……ナナメ!!」 聞こえるはずのない声が、波の隙間で響いた。 ナナメは自分の耳を疑いながらも、そっと振り返る。 向こうから誰かがとんでもないスピードで走ってきて、 ナナメは思わず、あ、と声を溢してしまった。 「ヨコさん…?」 ヨコはあっという間にナナメの元に来ると肩を掴んでくる。 「早まるな!!?!」 珍しくテンパっているような様子のヨコだったが、 突然現れて爆走してきた彼にナナメはなにも言えなくなってしまって その顔をまじまじと見つめてしまう。 「…ナナメ…俺…っ、なんでもするから……っ!」 「….……はい?」 ヨコは変なことを言いながらナナメを抱きしめた。 「…っ、どこにも、行かないでくれ……」 泣いているような声でヨコが呟いてくる。 ぎゅう、と背骨をへし折られそうな勢いで抱きしめられて、苦しさを感じるのだが それ以上にあまりにも幸せすぎて、思わず視界が滲んでしまう。 「い…行かないですよ、どこにも…」 そっと彼の背中に手を回しながら、居場所、と言われたことを思い出した。 確かにここが自分の居場所だと感じるし、ここから逃げるわけにはいかないとも思う。

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