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4-49 逃げて来てくれて。

その後も四鹿家にもみくちゃにされたヨコだったが、ナナメに連れ出されて 彼の元々の部屋だという小さな和室へとやってきた。 「はぁ…本当にごめんなさい… 客商売だからかもしれませんがみんな人懐っこいというか…」 「……賑やかでいいと思う」 「お恥ずかしい限りです…」 彼はどこか疲れたように笑った。 両親がほとんど家にいないような家庭で育ったヨコにとっては何となく暖かい家庭のような感じもしたが ナナミからはナナメがほとんど家出のようにして飛び出したと聞いていたため それはそれで何かしんどかったのだろうかと思ったりもする。 「俺は…姉みたいに優秀なわけでもないし、旅館の仕事が特別好きってわけでもなかったのに 男ってだけで後継だって家族だけじゃなくて島中から言われてて それに耐えられなくて……」 3畳ほどの小さな和室は、勉強机がぽつりと置かれていた。 生まれた時から都会にいたヨコには島という狭いコミュニティでの生活は想像もつかなかったが ナナメの横顔は複雑そうで、ヨコは自分なんかが口出しできることではないと分かってはいるのだけれど。 「俺は…結局色んなところから逃げて… 最初はヨコさんからも逃げようとしたし、今も書けていないのに良くしてもらえることが怖くって…。 ここからもそうやって逃げたんですよね… 期待に応えられないのが、しんどくって…」

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