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4-50 逃げて来てくれて。

彼の抱えるプレッシャーなんて自分に理解できるわけもない。 だけどそんな風に微笑まれると居た堪れなくって、 ヨコはそっと彼の身体を引き寄せて抱きしめた。 「……俺にはお前のことに口出す資格なんかない…けど… 逃げてきてくれてありがとうって思ってる…」 「え…?」 「ナナメがずっとここにいたら出会えてなかったから……」 もしも彼が島から出ずに旅館を継いでいたら、自分達は会うことなんてなかったかも。 そうなったら今頃自分はどうやって生きているのだろうか。 裏切られてめちゃくちゃになって、ただ心臓が動いてるだけの屍みたいな状態で どうやって過ごせたのだろう。 「お前に出会ってなかったら……俺は…、多分死んでた…」 世界中の全部が敵になってしまったようで、何をするにも億劫で どこに向かって歩けばいいのかも分からなくて。 そんな自分の存在をただ許して、微笑んで、くれた。 ナナメを見下ろすと、彼の瞳は涙の膜に覆われてキラキラと輝いていた。 いつでもそんな風に、眼差しを向けてくれるから。 「俺はお前がいないとちゃんと生きていけない」 彼がいなくなった数日でそれを思い知ってしまった。 彼に手を引いてもらっていることも、全部許してもらっていることも。 「もしもナナメがいなくなったらって思ったら… ナナメは…何にも変え難いよ…お前の顔見て、やっぱりそう思った。 だから…何でもするし…なんだって我慢するから…、側にいて欲しい…」 そうやって、懇願することしかできない。

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