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4-51 逃げて来てくれて。

ナナメはそっとヨコの頬に触れて、口付けてくれた。 そうやって触れてもらえることが嬉しくて、幸せで。 「もう…ヨコさんは充分俺にしてくれてるんですよ? それに何もしてくれなくたって…、側にいるに決まってます」 彼は困ったように微笑みながら、ぎゅう、と抱きついてくれる。 「……ごめんね…振り回してばっかりで…」 胸の中で彼は呟いているけど、 自分という存在が何よりも彼を振り回しているのかもと思うと申し訳なくて だけどそうやって許してくれている彼につい甘えてしまう。 どうしてやったらいいのかまだ答えも出ていないけど ただ出来ることを出来るだけ、やっていけたらという力技しか思い付かないし。 「…ナナメ…あの、部屋…見てしまったんだが……」 ナナミの所為とはいえ勝手に入ってしまったことを申告すると、ナナメは苦笑いをして、あぁ…、と呟く。 「……その、なんでも、したいとは思ってるし 俺には小説を辞めろなんて言えない…けど、 本当にそのつもりなら俺はお前のこと支えようって思う」 「え……」 「けどお前が俺のために手放すっていうのならそれは違うとも思う… 正直、誰かがお前に触れると思うと頭がおかしくなる……けど、 ……、どうにか折り合いつけなきゃとは思ってるんだ …お前には何も我慢して欲しくはないし…… それでも俺の側にいてくれるなら…充分……、」 いつかは開き直れる時が来るのだろうか。 ナナメはきょとんとしていて首を傾けた。

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