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4-54 逃げて来てくれて。

「………あんた達戸を開けっぱなしで……」 不意に声が降ってきて同時にそちらを見る。 着物姿のキリッとした顔立ちの女性が呆れたようにこちらを見下ろしていた。 2人は慌てて離れる。 「な…ナナコさん……」 彼女はため息を溢すとヨコをじろっと睨んでくる。 「大丈夫か?ナナメちゃんにたぶらかされとらんか?」 「なんてこというんですか!」 じっと見つめられてヨコは姿勢を正しながらも、小さく頭を下げた。 「あの、真壁と言います。 ナナメさんと…真剣にお付き合いしています…」 彼女が誰なのかもわからないがそのオーラについそう言ってしまうと その鋭い目付きで散々睨まれて、ナナメもずっと黙っているし ヨコは負けじと彼女を見つめ返すのだった。 やがて彼女は部屋に入ってくると、美しい所作で畳の上に正座をした。 「申し遅れました、ナナメの姉のナナコです。 いろいろ大変と思いますけど、弟のことよろしくお願いしますね」 女性は丁寧に頭を下げると、そう言って微笑んだ。 ヨコも同じように、こちらこそ…、と頭を下げる。 そしてナナコはぎろ、と弟を睨みつける。 「ええ人そうじゃない。大事にしんさいよ」 「当たり前でしょ…」 ナナメが口を尖らせると彼女は再び無言で見つめていて、 耐えかねた弟はおずおずと姿勢を正した。 「大事に致します………」 「よろしい」 姉の絶対王政が垣間見えて姉弟とはこういうものなのだろうかと思うヨコであった。 「さてと。あんた達今日帰るんじゃろ? せめてご飯食べていきんさい ナナエさんがまた張り切って大量に作っとるけえ」 彼女はそう言い残すとさっさと部屋を出て行ってしまった。 なんだかよく分からないが許されたらしい。

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