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4-68 恐ろしい子

あんなにも筆が進まなかったのに、気付いたら一作品書き上げることができた。 無理矢理書いたわけでも苦しんで書いたわけでも無く、つるんと簡単に飛び出してきたようなその作品が 果たしていいのか悪いのかもわからないまま、 だけど書けないまま終わるのかもと思っていた中でも完成できたその奇跡の作品は、遺作となるのかもしれない。 そう思うと、これでもいいかと愛着も感じてしまう。 長らく待たせてしまった袖野に申し訳なさを感じながら見せると彼はまた、はえー、と変な声を出しながら画面を睨んだ後、顔を上げた。 「これやば」 またもやどちらかわからない事を言われ、 ナナメはめちゃくちゃ怒られたらどうしようと思いながらも身体を縮こめてしまう。 「神作ちゃう?」 「ええ…毎回言ってません?それ…」 「いやマジでマジで…これ期待超えてきとるがな… なんか逆に怖っ!恐ろしい子…!」 相変わらずオーバーすぎる褒め言葉にナナメは、うーん、と唸りながら口を歪めた。 「……俺実は小説辞めようと思ってて…」 「…………え?」 袖野はぽかんと口を開いた後、またまたぁ…、と苦笑してくる。

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