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act8:Valentine after Jealousy

 昨夜は、ちょっと騒ぎすぎた――  もそもそと起き上がって、隣で寝ているレインくんに目をやるが、死んだようにすやすやと眠っている。  店では、穂高さんがいなくなってから大変だった。売り上げが落ち込んだのを何とかしようと、一生懸命になって頑張る姿をレインくんは見せてくれたんだ。  以前なら他の従業員と仲良くしなかったのに、体育会系の部活宜しく一致団結して、この危機を乗り切ろうと、バレンタイン企画なんて考えだして――  こっちが目を奪われてしまうような、返り咲いたナンバーワンの華やかさとか、お客様相手に繰り広げられる、甘い囁きなどなど……嫉妬するネタは山ほどあって、奥歯を噛みしめたとき―― 『なぁに渋い顔してんだよ、大倉さん。レモネードちょうだい』  言いながら流し目をして俺を見上げるレインくんに、表情を変えず強請られたものを作ってあげた。  無言で差し出したグラス――手を引っ込めようとしたら、逃がさないといった感じで握りしめられる。手の甲に感じる、レインくんの熱が、俺に伝わって身体を熱くした。 「店が終わったら、大倉さん家に行っていい?」 「ああ……」 「だったらキープしておけよな。しなくていい嫉妬心」  薄い唇を綻ばせて、グラスを掲げながら去って行った。    宣言通りキープしたものを帰ってから、思いっきりぶつけてやったのだが―― 『ああぁ、ダメだって、そこっ! そんなにすんじゃねぇ、っ…よっ』 「やめてあげない……イジワルなレインくんに、おしおきっ、んんっ…しなきゃ」 『バッ――はぁ、そんな、のっ…ぁあっ、またっ、イっ――くぅ……っ』 「苛めすぎてしまったかも……」  レインくんの身体についた痕が、すべてを物語っている。年甲斐もなく、何をやってるんだか。  呆れながら煙草を手に取り、火を点けてリビングに行くと、テーブルの上にはたくさんのチョコが置かれていた。 「今年もこれを、俺が処理するんだろうな」  1年前の同じ日に、お客様から渡されたチョコを前にして、困り果てるレインくんに話しかけたっけ。   「どうした、レインくん?」 『ああ、大倉さん。実は俺、甘いもの苦手なんですけど、手作りチョコの返事、しなきゃならなくって』  今よりも髪が短くて、素直だったレインくんを、ぼんやりと思い出す。 「だったら俺が食べて、レポートにまとめておくよ。それと――」  ホストとして未経験だった彼をここまで大きくしたのは、俺が手塩にかけたからだと自負する。磨けば光る原石だと思ったから、そりゃもう親切丁寧に指導をして。  ――ま、チョコと一緒に戴いちゃったのだが。 「しっかし、昨年よりもチョコの量が増えてるのは、人気の証なんだけど……」  残念ながら嫉妬心が膨大に増えていくのが、手に取るように分かってしまう事実。 『バレンタインのチョコの代わりに、コレやるよ!』  チョコの傍に置かれた、日本酒の一升瓶。彼の地元の酒だそうだ。色気はないけど、俺の好みを分かっている、彼らしいチョイスに笑わずにはいられない。 「だからつい、可愛がっちゃうんだよな」  ホワイトデーには、何をあげたら喜んでくれるだろうか?  こんな醜い嫉妬心よりも、キレイな気持ちをプレゼントしたいなと思った。    めでたし めでたし

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