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act11:その後のふたり③

 しんと静まり返ったマンションの一室に、ひとりでベッドに腰掛けて待っていた。  いつまで経っても帰ってこない大倉さんに、イライラしたり落ち込んだり。忙しない心が、不安定すぎてどうにもならなかった。 「井上にされた例のアレを大倉さんに言うには、すっげぇ勇気がいる。だけど誤解を解くには、それしか方法がないんだよな……」  大好きな秀彦をキズ付けないようずっと隠していたのに、今頃バレてしまうなんてタイミングが悪いとしか言いようがない。しかも突然現れた、元カレらしいアイツ―― 「大倉さん、アイツに誘われるがままに、跨ったりしていないだろうな。俺が井上とデキてるって勘違いしたまま、出て行っちまったし」  逸らされた視線の冷たかったこと――まるでデカい氷を、心臓にぎゅっと押し当てられたみたいだった。その冷たさで身体が固まって、動くことも喋ることも出来ず、追いかけることさえ出来ずにいて。 「っ……情けねぇな。こんなことで、涙がっ……出てくる、なんて」  ――大倉さんに、捨てられるかもしれない。  今まで考えたこともなかった。それはいつも俺に対してヤキモチばかり妬いて、べったりとくっついていたから。それが当たり前になって、安心していたよな。 「熱しやすく冷めやすい、なんていう言葉があるくらいだ。いつかは、冷え切ってしまうのかもしれない」  ぽたぽたと涙を溢しながら、ムダに喋ってしまう。受け入れたくない現実を突きつけられ、マイナス思考に陥っていたら。 「……レインくん」  その声に導かれるように顔を上げたら、大倉さんが部屋の前で呆然とした表情で立っていた。  いてもたってもいられず彼に駆け寄り、ぎゅっとその身体に抱きついてやる。お酒とタバコのニオイが染み付いていて、ずっと呑んでいたのは分かったのだが――最終的な不安までは、どうしても消せずにいた。  前カレと一緒にいたけど何もなかったと、大倉さんの口から直接聞くまで、不安が胸の中にいっぱいで、ぐるぐると渦巻いている状態。口を開くことも出来ず、ただしがみ付くのが精一杯だ。 「君を泣かせてしまったのは、俺のせいなんだろうね」  静かに告げられた言葉に、ふるふると首を横に振った。勝手に俺が不安に苛まれて、ムダに涙を流しただけなのに。 「秀彦、信じらんねぇかもしれないけど、井上とはデキてない。デキてないんだけど、その……」 「…………」  無言で俺の涙を拭ってくれる、優しいてのひら。思わず、両手で握りしめてしまった。あの出来事を言わなきゃならない苦しさがいっぱいで、ぎゅっと縋りついてしまう。 「……アイツが新人として入って来て、ちょっとしてから……ロッカールームで襲われたんだ」 「なっ!?」  握りしめていた大倉さんの手が、みるみる内に冷たくなっていく。 「襲われたといっても、最後までしたんじゃなくて、さ。俺のを手で扱いただけで……イかされたトコを、ばっちり撮影されてしまって」 「おいおい、冗談だろ……穂高さんがそんな――何でレインくんに、そんなことをしたんだ!?」 「わかんねぇ。しかも直ぐに撮影したメモリを消去して、好きに使ってくれってビデオカメラを手渡され――」  言い終えないうちに、大倉さんが空いてる片手で俺の体を引き寄せ、強く抱きしめてきた。 「どうして君はそのことを、俺に言わなかったんだ? 恋人なのに……どうして」 「それはっ! だって……キズつけたくなかった。それにこんな恥ずかしいミスを、どうしても知られたくなかったし。井上のことをただの新人だと思って、舐めてかかっていた自分の失態を見せたくなくて」 「へぇ、舐めてかかった挙句、穂高さんの手で気持ちよくさせられて、ものの数秒でイっちゃったんだ。レインくん」 「くっ////」  耳元で囁くように告げられた言葉に、反論の余地なし――ずばりすぎて、どうしていいか分からねぇよ。 「ねぇ俺の手と、どっちが気持ちいいのかな? 教えてくれないか?」 「そんなの、大倉さんのに決まってるだろ!」 「だけど俺はレインくんを、ものの数秒でイかせたことはないけどな」  くすくす笑ったと思ったら、俺自身を服の上から掴んでくる。 「ちょっ、いきなりっ!?」 「いきなり、こうやってされたんでしょ? さて次は、どうやったらものの数秒で、レインくんをイかせられるのか、是非とも丁寧に教えてほしいね」  こうして大倉さんの復讐劇が、見事に展開されてしまい――結局俺は、昼近くまで寝かせてもらえなかったのである。  しかもこの復讐は俺だけじゃなく、井上にも直接攻撃することになったんだ。

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