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act5:じれったい愛
背中が、すっげぇあったかい――まるで、誰かと寝ているみたいな感じ……
「っ、あれ?」
昨日どうしたんだっけ? 店で具合悪くなって散々吐いた挙句に、大倉さんにレモネードを飲ませてもらったのは、しっかりと覚えてる。しかしその後のことが、さっぱりと分からないぞ。
「なんつーか酔っ払った勢いで、誰かと一夜を共にしてしまった、みたいな?」
目を開けると見知らぬ壁と天井が視線の先にあり、後ろには確実に誰かがいる。いるのだが怖くて見られない……
恐るおそる自分の身なりを確認してみたら、ツルツルしたグレーのパジャマを着せられていた。意味なく袖口を何度も触ってしまう。
「滑らかで上品な生地の感じ、間違いなくシルクってヤツだろうな」
そんな無意味な確認しか出来ない。パジャマの上からでも分かる、後ろにいる人物の体温を、ひしひしと感じてしまい焦燥感に駆られた。
着替えさせられたってことは、つまり服を脱いだことになる。服を脱いだということは、後ろにいる人物と、ナニかをしてしまったのだろうか?
意を決して顔を引きつらせながら、ゆっくり振り返ったら、すやすやと幸せそうに眠る大倉さんが予想通りいて、何故だか上半身が裸のままだった。知りたくはなかったが下半身がどうなっているのか、布団の中を覗きこんでみる。
「(///o.///)ゞ うぉっ、すみませんっ」
寝ている相手に対し、赤面しながら謝ってしまった。だって見てはいけないモノを、思いっきり見てしまったから。
何でこの人、全裸で寝ているんだ? そして俺の身体に、何かあったのだろうか?
イヤな冷や汗が、だらだら出てくる。
思い出そうとしても、全然記憶のない状態。身体の違和感を探そうにも、ナニをどうするのか知らねぇし……そういや、突っこんじゃいけないトコに、突っこんだり出したりするんだっけか?
「朝から、随分と急がしそうだねレインくん」
「ヒイッ!?」
いきなり声をかけられ、ビクッと竦みあがってしまった。
「昨日はあんなに激しく、擦りあったり舐めあったりいろいろしたのに、マズイことをしてしまったって顔してる」
――ああ、やっぱりヤっちゃったのか……
「大倉さんすみません、あの…俺」
「ウソだよ、引っかかってくれたね」
「は?」
「体調の悪い君に、手を出すなんてするワケないじゃないか。店にとって大事な人を、手荒になんて扱わないよ」
満面の笑みで告げられた言葉に、一気に力が抜けてしまった。力が抜けてもベッドの上なので、まったく支障はないけれど、思いっきり身構えていたので、そりゃあもう力が入りまくって、大変な状態だったんだ。
「な、んだ……そうだったのか」
安心しきって呟いた俺の頬に、いきなりちゅっとした大倉さん。
「うぉおっ!?」
「おやすみのキスはしたけどね、しっかりと」
ここぞとばかりに意味深な笑みを浮かべ、素早く俺の上に跨って来た。
店で跨られたときは服を着ていたので、一応何ともなかったけど、見上げる大倉さんは素っ裸な状態。危険度が、二割増くらいに跳ね上がっている。
「や、ややっ、待ってくれ」
「レインくんは俺のこと、どう思ってるか聞かせてくれないか?」
俺に跨ったまま身体を押さえつけることをせず、じっと見つめてきたこの人に、何て言えば納得してくれるんだろ。
「ぅ、あのぉ……店長としてというか、人として尊敬する存在っていう感じ、みたいな?」
「俺は聡が好きだよ、恋愛感情を抱いてる」
「っ――////」
こ、このタイミングで本名で呼ぶなんて、動揺するじゃねぇかよ。
「自宅に連れ帰った時点で、抱こうと思えば出来たんだけどさ。どうにも手が出せなかったよ。身体だけじゃなく、心ごと聡がほしかったから」
「なっ、やらねぇよ////」
「そう言いつつも、実際は俺のことを気にしてるでしょ? 目で追ってるのを知ってるよ」
「それは、アンタがいきなり、っ――!」
言いかけて、慌てて口をつぐんだ。
大倉さんが素っ気なくなっただけじゃなく、好きだと言わなくなったせいで、落ち着かなくなったと言えるワケがない。
「俺が、なに?」
ずいっと顔を寄せられ、逃げられなくて息を飲んだ。唇が触れそうな近い位置にある、大倉さんの端正な顔。素直にカッコイイと思えるそれに、ドキドキしてる自分がいて、頬が一気に熱くなるのが分かった。
(ヤバイ……何なんだ、コレ――)
バクバクと心臓が踊り狂ってて、どうしていいか分からず、意味なくシーツを両手でぎゅっと握りしめる。
「聡、ひとことでいいから……」
呟くようにそこで一旦区切って、じぃっと俺を見つめてから声を出さずに、口パクで何かを告げた。
「ゲッ////」
短い言葉の口パクだからこそ、それが何かしっかり分かってしまって、固まるしか出来ない。そんな俺の告白を待ち、真剣な表情を浮かべている大倉さん。
『好きって言って』
強請られた言葉は、たった2文字。だがそれを言ったらこの先、どうなってしまうのか、分かりすぎるくらい分かる。分かるのだが――
週に1回の自分の休みを使って、日サロのオネェ店長の元に通っていたある日、唐突に告げられてしまったセリフを、ぼんやりと思い出した。
『レインくん、お店に尽くすその態度を、秀ちゃんに向けてはくれないかしら?』
「んなもん、無理に決まってるだろ」
『そんなハッキリと言っちゃうとか、秀ちゃんの代わりに泣いちゃうわ。でも彼のこと、キライじゃないでしょ?』
「まあ、人としてはちゃんとしてるから」
『そのしっかりした男が、私にモノを頼んでくるなんて、今までになかったのよねぇ。「いいカモが見つかった」なぁんて言ってたけど、きっと運命を感じたのよ。そして私はふたりの仲を取り持つ、可愛いキューピッドになるのよね』
「……随分とごつくて、ハゲたキューピッドだな。つぅか、いいカモってなんだ? 頼まれたって大倉さんにか?」
テーブルの前で半裸をくねくねと揺らしながら、小さい目を瞬かせる姿に、若干引き気味になりつつ質問してみたんだ。
『いつもはね私の恋愛を応援してくれるんだけど、今回は珍しく頼んできたのよ。絶対に落したい相手なんだろうなって分かったから、私からレインくんに、いろいろと手を施してあげてたの』
「なんだそりゃ。ふたりがかりで、俺に何かしていたのかよ。呆れた……でも大倉さん、諦めたと思うぜ。今は何もしてこないし、言ってこないから」
『何もしてこない、ね。そっか、秀ちゃん諦めたのか…残念だわ。だけどレインくん、寂しいでしょ?』
「はぁ……変なことされなくなって、清々してるトコ。寂しいワケないだろ」
『ふふっ、ホストの言うキレイなウソが、板についてきたわね。だけど瞳は正直なんだから、寂しそうにしてるって』
嬉しそうな顔してテーブルを叩くおねぇ店長に、無性にイライラしたんだ。ウゼぇなぁって。
「目を逸らさないで。俺だけを見て、聡」
大倉さんの声で、はっと現実に引き戻された。
「耳まで真っ赤にして、そんな風に狼狽たえる姿に、全部奪いたくなる」
「う、奪うんじゃねぇよ////」
「反抗的な言葉も俺にとっては、扇情的に聞こえる。堪らない……」
ギリギリの位置にあった唇が、やんわりと押し付けられたけど、直ぐに離された。
「すごく熱くなってるね、聡の唇」
「やっ、やめろって。そんなこと、言うなよ」
「他のところは、どうなっているんだろう?」
言いながらふわりと無邪気に微笑んだ顔に、またしてもドキッとしてしまい、更に身体が熱くなっていく。
それを知られたくなくて、両腕で大倉さんの動きを阻止しようとしたら、ベッドの上にぎゅっと押さえつけられられてしまった。
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