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第8話 政略的結婚

舞踏会の会場は城で一番広い面積のホールで行われる。 王と妃はホール内が見渡せる高い位置に。 妹もそこにいるはずだがいつの間にか消えていた。 「皆の者よ、本日は我が息子アッシュ・カミュー・リゼエッタ・トロイトのため遥々集まって頂き誠に感謝する」 たくさんの人はいるものの皆身動きも取らずシンとして王の言葉を聞いていた。 ホール内に王の言葉が響き渡る。 アッシュは王の隣で下を見下ろした。 みな豪奢なドレスを見に纏い、派手に頭を盛っているものもいる。 花壇の花でも眺めているような気分になる。 美しい、可愛らしいとは思うが次の瞬間は忘れてしまう。 「.....本日は大いに楽しまれよ!」 ぼーっとしている間に王のスピーチは終わり、 アッシュは慌てて拍手に加わった。 王はフラフラと椅子に戻り、妃に支えられながら椅子に腰を下ろした。 「...さあ、アッシュよ...行くのだ」 具合の悪そうな顔で王は見上げてくる。 心配になったがアッシュは頷き、下の階に降りるためにその場を離れた。 「かーわいい女の子いっぱい来てますよん」 廊下に出ると壁に背を預け腕を組んでいた 金髪の男が片眉を上げて呟いた。 胸に沢山の勲章をつけた軍服に身を包んでいる。 彼はリゼエッタ帝国の防衛大臣だが、アッシュにとっては幼馴染でもあった。 「マルク...俺は、この国にとって有益なものを持つ国の女と結婚する」 アッシュは男の金髪を睨んで言った。 「まーたそんなこと言っちゃって... 女の子は道具じゃないんですよ」 ため息をつきながらマルクは壁から背中を離した。 「いいから頼んでいたものを寄越せ」 「はいはい。」 片手を差し出すアッシュにマルクは懐からファイルを取り出して渡した。 「....機密書類をセブンのAKBファイルに入れんなよ...」 「いやーまゆゆが可愛いくてつい。 でもこれ使い所ないんすよね」 アッシュはファイルの中から数枚の紙を取り出した。 本日舞踏会に訪れている姫達の国のデータの一覧だ。 武器の製造を得意とする国、広大な面積を誇る国など 手に入れればより国の繁栄に繋がるものを選ばねばならない。 そもそも心なんかはない。 であれば紙の上で選ぶことだってできるのだ。 「条件的に言えば、シシィ国のエイリアス姫がいいんじゃないですかね。」 シシィ国は3つの海の中間に位置した国だ。 輸入輸出の通過点で栄えている。 確かに手に入れて損ではないだろう。 エイリアス姫の写真を確認する。顔は派手でもなく地味でもなく普通だが 可愛いといえば可愛い方だろう。 「17歳ですよJKじゃないっすか。いいなあ」 歩き始めたアッシュの後ろについて歩き、 ファイルを覗き見しながらマルクが呟いた。 年や顔など二の次三の次だ。 舞踏会に来ている時点でいくらかは結婚する意思はあるということだろうし。 「次いでにお前も結婚相手を見つけたらどうだ?」 「ええーどうしよっかなぁ」 マルクも女好きではあるがなんだかんだでのらりくらりと躱している。 ファイルを彼に預け、ホールへと降りる階段に向かった。 優雅な音楽、人々の騒めきが聞こえてきた。 アッシュは眼を閉じ、 深呼吸をしてからホールへの階段へ現れた。 ホール中の人間がこちらを振り返り、やがて皆こぞって頭を下げた。 「..本日はお集まり頂き光栄です」 アッシュは笑顔を浮かべ、 階段をゆっくりと降りた。 「アッシュ様だわ」 「素敵」 囁き声が聞こえるが、 アッシュにはただの雑音だった。 暫く、何々国の何々姫ですといったように 挨拶にこられ、いちいち覚えきれずに苦労した。 凄まじく頭を盛った姫と果たして結婚できるのかと疑うほどまだ年端もいかない姫などしか印象に残らない。 30人ほどに挨拶され肝心のエイリアス姫がようやく現れた。 ピンク色のドレスを身に纏い、小さなリボンを頭につけて、幼さが残る顔立ちが控えめな印象だった。 「ワルツを」 王の声が鳴り響いた。 ホールの隅に待機していたオーケストラが静かな曲から軽快な曲調に変えた。 最初のお相手は誰を選ぶのかしら、 わたしよ、わたくしかもしれないわ、と 囁き声がざわめきとなり 一同はアッシュに注目した。 アッシュはとりあえず エイリアス姫に声をかけようと一歩踏み出した。

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