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第10話 戦略的ラブロマンス
「っはー簡単簡単。ちょろいもんだぜ」
ワルツを踊りきったファリスはホールの隅で待機していたシアーゼの元に戻り疲れたように呟いた。
曲が終わり、ファリスは"素敵な時間をありがとうございました"と捨て台詞を吐き
突然現れたシンデレラにライバル心を燃やす姫たちが、次は私と!と群がる中を逃げてきたのだ。
シアーゼはファリスに飲み物の入ったグラスを差し出した。
「さすがファリス様」
「まーあね」
ファリスは歌うように言ってピンク色の液体を飲み干した。
恋をしたことのない王子様など落とすのは簡単だ。
衝撃、動揺、吊り橋効果。そして、焦らし、ミステリアス....。
ベタ中のベターな作戦だったがこうも簡単に引っかかってくれるとは。
「骨抜きになるのも時の問題ですね」
シアーゼは愉快そうに笑った。
案外この仕事は楽かもしれない。
「次行くぞ」
ファリスはシアーゼの肩を叩いてホールを抜け出した。
結局断りきれずにアッシュは
二曲を他の姫と踊ってしまった。
踊っている最中にも走り去ってしまったファリスの姿を探したが、彼女はどこにもいない。
幻だったのかとさえ思うほどに甘美で儚い時間だった。
「すまない...少し、休む」
二曲目が終わり、アッシュは踊っていた姫の顔も見ずにマルクに声をかけホールを抜けていった。
頭の中はファリスでいっぱいだった。
広いホールにはあの水色のドレスが見つからず、メイドに聞くと外へ飛び出していったという情報を掴めた。
アッシュはホールを出て広い廊下を走った。
やがて半開きのドアを見つける。
暗い部屋の窓は開け放たれ、
白いカーテンが揺れていた。
静かに部屋に入り、窓に近付く。
潮風が頬に触れた。
窓の外を覗くと、そこは城の裏手だった。
丁度水色のドレスが角を曲がったのが見え、
アッシュは慌てて窓から飛び降りた。
一階とはいえ彼女も窓から出たのだろうか。
走って城の角を曲がると中庭に出る。
城の明かりが窓の形に芝生を照らし、
噴水の水が月に光で反射していた。
水色のドレスはその噴水の縁にこちらに背を向けるように座り込んでいた。
結い上げられた金色の髪。白い頸が見えていた。
心臓が飛び出しそうだった。
「.....ファリス、姫..」
アッシュは思わず彼女を呼んだ。
びくりと肩が揺れ、
驚いたようにファリスは振り返る。
アッシュの姿に気づくと彼女は立ち上がった。
「アッシュ殿下...!?どうしてここへ...」
「君こそどうして...?」
ファリスは両手を胸の前で組み、
そわそわしていた。
「わたくし..その...、華やかな場所が苦手で..」
ファリスは微笑んだが、やがて眉根を寄せて俯く。
「本当は...殿下とワルツが踊れるなんて夢のようで、なんだか恥ずかしくなってしまって...」
顔を赤らめて、ファリスは泣きそうな目をしたがやがて無理矢理な笑みを浮かべてこちらに近付いてきた。
「殿下はお優しいのですね。
わたくしが..飛び出してしまったから追いかけてくださったのでしょう?」
その一動一言から目が離せなかった。
ただ歩いているだけなのに、素晴らしい絵画でも眺めているような気分になる。
「君と...もう一度踊りたくて..」
アッシュは呆然と呟いた。
考えるより前に、言葉が出ていた。
「まあ...わたくしなんかで..よろしいのですか..」
ファリスは困ったように微笑んだ。
エメラルドグリーンの瞳は潤み、その美しい瞳に見つめられると頭がおかしくなりそうだった。
アッシュは思わず跪き、彼女の白い手を取った。
「い、いけませんわ殿下」
「ファリス姫、あなたと踊りたいのです」
彼女の言葉を遮ってはっきりと言った。
ファリスは一度瞳を伏せ、
ドレスが芝生に広がっても気にすることなく、
アッシュと目を合わせるようにしゃがみ込んだ。
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