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第12話 隠密内緒事

「〜っだぁくっそ面白くなーい」 屋根の上から中庭で踊る2人を双眼鏡で監視しながらシアーゼは爪を噛んだ。 幾ら仕組まれたものといえどいい雰囲気になっているのは解せない。 ファリス様は天使で女神で、シアーゼにとっての全てだった。 彼さえいればそれでいい。それが過酷な試練を課せられてきたシアーゼの荒んだ心を満たす全てだった。 「.....我慢しろ俺っ」 シアーゼは自分の頬を軽く叩きながらそう叱咤した。 双眼鏡を懐にしまい、屋根の上を静かに移動した。 ラブロマンス映画1000本ノック、更に花魁、娼婦宿、路上ナンパ500人斬りの修行を経て王の命でハニートラップを数々行ってきた2人にとって 恋愛初心者の王子を落とすのは朝飯前だった。 問題は暗殺の方だ。そしてシアーゼにとっては そのあと無事に逃げれるかが肝心だった。 いっそ死んだことにして2人で何処か遠い場所へ亡命出来たらなあと思ったりもした。 一先ずできうる限りのことをしておかねばなるまい。 窓から用意してもらった部屋へと音もなく戻り、シアーゼは1つにまとめていた髪を解いた。 荷物の中から花魁時代に着ていた着物を引っ張り出し手早く着替え、2分でメイクをした。 早着替えも早メイクもスパイスキルをMaxレベルまであげたシアーゼにはお手の物だ。 さっさと髪を結い上げ簪で留め、 歩きながら一応鏡で確認をして部屋を出る。 我ながら妖艶なアジアンビューティーに仕上がったと思う。 しゃなりしゃなりと廊下を歩き、舞踏会が行われているホール前まで来ると蝶の飾りがついた扇子を広げた。 目だけを素早く動かし、豪華な食事が並んだテーブルの前で露出が素晴らしい女性を口説いている金髪軍服の男を見つけそちらに近付いていった。 2人の距離まで50メートルといった所で 男の目が自分に気付いた事を確認。 もぉ〜やだぁと甘えた声を出している露出女の横を過ぎ、 軍服の男の腕を掴んでそのまま颯爽と歩いていく。 「ちょ、えっ?」 男は引っ張られ半歩遅れて一緒に歩き出した。 慌てた声をあげる男をちらりと横目で見上げ、 艶やかな薄い笑みを浮かべる。 男は口を閉じた。 「ここは人が多くて煩いわ。もっと静かな所はないの?」 扇子で口元を隠したままねっとりと絡み付くような声を出す。 男はに、と口を歪め掴まれている腕を持ち上げ指を絡めてきた。 「ございますよ、ご案内いたしましょうご婦人」 彼がこの国の防衛大臣で、軍隊の総指揮官だということは調査済みだった。 王子の舞踏会で姫をナンパするとは大した度胸の持ち主であるが、チャラい者にはそれ相応のやり方がある。 ナンパ500人斬りで学んだ事である。 シアーゼもまた、純粋な目的の為 己の身すらも犠牲にしているだけに過ぎないのだ。 ファリスの、ために。

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