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第14話 マリッジ・ブルー
婚礼の準備は着々と進められていった。
堅物王子がついに結婚ということで、
リゼエッタ帝国は大盛り上がりだ。
結婚の記念のグッズや祭りが行われ、国は華やかに彩られている。
マグルシュノワズも今大盛り上がりですよ!と、報告に戻っていたシアーゼはそう伝えたが
実は嘘八百なのである。
この事を知っているのは王と妃だけで国民には知らされていない。
無論同盟国や近隣諸国も知る由もない。
シアーゼは逆に情報の統制をして戻ってきたのだ。
ひょんなことから男の身である事がバレでもしたらことだからだ。
「お父様もお母様も喜んでいらっしゃるようで何よりですわ...」
ファリスはほぼ庭園に近いような城のベランダで草花を撫でながら呟いた。
両親には有る事無い事文章だけを書かせて送らせた。
嫁入り道具や召使や貢物も送ると書かれているが恐らく一生来ないであろう。
この仕事が成功して生きて戻れたら
新しいベッドカバーくらいは買ってくれるかもしれない。
「君のように素晴らしい女性のご両親..
そして君が育った国、是非見てみたいものです」
アッシュがそっと隣に歩み寄り、優しく微笑んだ。
ファリスははにかむように微笑み返す。
「マグルシュノワズは小さいですし、リゼエッタ帝国のように豊かではありませんわ..お城も古くて..
でも、みんなとても暖かかくて、静かに暮らしていますの。
朝は小鳥と歌って、お昼には虫たちとお話..」
実際国がどんなところなのかファリスはほぼ知らない。
幼少の頃より様々な国を渡り歩いていたし、
自国に戻れば地下室か見張り塔に篭っていたからだ。
とりあえずファリスは"ファリス姫"を脳内お花畑プリンセスという設定にしたい為それっぽい事を適当にいったに過ぎない。
しかしアッシュは感動しているようだった。
「リゼエッタ帝国も良い国ですわね。
みんな殿下の事が大好きみたい」
深く聞かれる前にファリスは話題を振った。
だがこれは本心だった。
彼の両親である現国王もこの度の結婚に泣いて喜んでいた。
ファリスの手を取り何度も何度もお礼を言っていた。
自分の身体の事よりも息子の事を考えているのだろう。
「皆少し大袈裟だろう..?呆れてしまったかな」
「いいえそんな事ありませんわ。
わたくしなんだか嬉しいのです」
息子を思う父親、王子を思う国。
立場上一緒であるはずなのに何もかも自分とは違う。
ファリスは泣きそうになる気持ちを押し込めて柔らかく微笑む事に神経を使った。
わかっている。これが正き王子の姿なのだ。
「わたくしの愛しい方が、みんなに大切に想われているだなんてこんなに素敵な事はないでしょう」
アッシュの手をとってファリスは全神経を注いだ渾身のスマイルをお見舞いした。
アッシュの目は釘付けで、恋の色を含ませ潤んでいた。
自分はきっと誰も好きにさえならない。
ファリスは冷え切った心が表面に出て来ないように、歌で誤魔化した。
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