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第17話 ドキドキベッドタイム
「............。」
「.............。」
「.........え?」
....はずだった。
ファリスは恐る恐る下を見る。
ナイフはがっつり彼の手で止められていた。
しかも素手で、白刃取りの容量で止められている。
咄嗟に掴んだとは到底思えなかった。
ファリスはナイフを自分の方へ戻しすぐさまベッドの上に立ち上がり彼にナイフを向けた。
「....ばれてたのか」
呆然と呟く。
まるでそんな素振りは見せなかったのに、
完全に騙された。
アッシュはニコニコと微笑んだ。
「君を最初に見たときから、
他のどんな女性とも違うと思ったんだ。
まるで戦場にいるような眼だ...と」
アッシュの言葉に舌打ちをする。
殺気が隠しきれていなかったのか、
相手が素人だと思って油断したのかもしれない。
だが反省会は終わってからだ。
ファリスはナイフを持ち替える。
「見破ったのは褒めてやるがあんたには死んでもらわないといけないんでね。悪く思うな、よ!」
片手で素早く第二撃をお見舞いしてやったが、
切りつけたのは枕であった。
慌てて後ろを振り返り、いつの間に回り込んでいたのかアッシュはそこにいた。
その顔めがけて素晴らしい速度でナイフを振り抜いたが、掠った。
逆に腕を掴まれベッドに押し倒されてしまった。
「..強いな」
頬から血を流しながらアッシュが感心したように呟いた。
両腕を掴まれ更に上にのしかかられ、体格差のせいで完全に身動きが取れない。
「...っくそ」
ここまでか。ファリスは吐き捨てるように呟き諦めてナイフを手から離した。
ナイフはカランと音を立てベッドの下へと落ちる。
「早く殺せ」
ファリスは虚ろな瞳で彼を見上げ呟いた。
失敗した暗殺者は1秒でも早く死ななければならない。
相手が小賢しい真似をする前に死ぬ。
それが次なるファリスの使命だった。
「殺すわけないだろう。君は俺の花嫁なんだから」
アッシュはそう呟きファリスの腕を持ち上げて手の甲に口付けた。
「はぁ?何酔狂なこと言ってやがる。
私は暗殺者だぞ」
「そんなの関係ない。俺は君が好きだ」
「ばっかじゃねえの!?演技に決まってんだろ!あんな頭湧いた女がいるわけねえだろ!」
ファリスは呆れ果てて思わず笑ってしまった。
しかし彼はいたってまじめくさった顔をして
じっとこちらを見つめてくる。
「...そうだな。だが今の君も先ほどまでの君も、同じ"ファリス"であることには変わりない。だろ?」
一体何を言っているというのか、アッシュの言葉に目を見開く。
しかしすぐに冷静な思考を取り戻そうと呼吸を落ち着かせる。
これはあれだ。
紛れもなく吊り橋効果だ。
ベッドの上で心臓が破裂しそうなドッキドキの展開が起こったのだから発情しても仕方ない。
ファリスは菩薩のような気持ちで目を一旦閉じ、また開いた。
「アッシュ王子...あんたもしかして気付いてないな?」
「...何がだ?」
「自分、男ですよ」
「えっ!?」
ファリスの言葉にアッシュは素っ頓狂な声を上げた。
その隙に彼の腹部を蹴り上げベッドから転がり落ちて素早くナイフを拾った。
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