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第18話 最初から嘘
1秒ほど遅れてアッシュはベッドから床に降りたつ。
「ごめんねェ何もかも嘘だったってわけ」
ファリスはウインクをしながら寝間着のボタンを外し少しめくって無い胸を見せてやった。
「....き、気付かなかった」
アッシュは相当にショックを受けた顔をしている。
やはり彼はホモではなかったらしい。助かった。
ファリスはゆっくりと後退り、
壁際まで来るとチェストの上の水差しを掴んだ。
と同時にアッシュに向かって走り出し、彼の足を払い水差しを放り投げ2人の上に冷たい雨が降った。
上体のバランスが崩れた上に雨に降られアッシュはついに抵抗できず床に倒れた。
その上にファリスは飛び乗る。
彼の両腕を足で抑え、抑えられれば力が入りにくいところに体重をかけた。
「....いや、でもいい!結婚しよ!」
しかしアッシュは声高らかに
自分の上に乗ったファリスに叫んだ。
「....はい...?」
「結婚してくれ」
「...いや..状況わかってます...?」
またもや真面目くさった顔で結婚を迫られ
ファリスは瞬きをした。
「君が好きなんだ..っ」
必死な目で見つめられ思わず息を飲む。
今殺しておかないとまずい。
そんな気持ちが巻き起こりファリスは奥歯を噛み締めてナイフを振り上げた。
振り下ろそうとした瞬間、
部屋のドアをノックされる。
「...アッシュ殿下?凄い音がしたのですが...」
女性の声が聞こえ2人は息を飲んだ。
ファリスは彼が100%助けを求めると思ったし
その前に殺して逃げようと思った。
しかし、なぜか腕が動かない。
「...あ...いやなんでもない大丈夫だ...」
アッシュはドアの方を見ながらそう声をかけた。
「そうですか、大変失礼いたしました..っ」
女性は謝り気配は去った。
なんとか誤魔化せてふうと息を吐くアッシュに
ファリスは無性に腹が立って彼の首にナイフを突きつける。
「ふざっけんなよ...何で助けを呼ばないんだよ?なんで私を取り押さえないんだ..っ」
泣きそうな声が出てしまった。
だがアッシュは組み敷かれたままの状態で
ファリスを見上げて微笑んだ。
「言っただろう..君が好きなんだ。」
「殺されるんだぞ...
そんな気の迷いで命を粗末にするなよ...
さっきの姉ちゃんだってお前が死んだら...」
悲しむに決まってるのに。
ファリスは不意に、
どっちが死ぬにふさわしいかを悟ってしまった。
いや最初からわかっていたのかもしれない。
無意味な生にしがみ付いて
醜くとも生き続ける理由なんか本当はない。
「気の迷いなんかじゃない...!俺は、本気で」
アッシュが必死に叫んだ。
だがファリスは疲れて彼の口を片手で塞いだ。
「どのみち私は助からない。
だったら暗殺者が選ぶ道は1つだ」
シアーゼ、ごめん逃げくれ。
そう強く思いながら
ファリスは自らの首筋にナイフの刃を当てた。
「...!?待てやめろ!」
アッシュが叫び暴れたが、
ファリスに抑えられビクともしない。
どうして自分をそう気にかけるのかファリスにはわからなかった。
あの脳内お花畑プリンセスがまだ存在していると思っているのだろうか。
そんなものは最初からどこにもいない。
ファリス・フレンフランは、
ただの薄汚い人殺しだーーーーーー。
ナイフの冷たい刃が肉を裂く感触に飲み込まれ、鮮血を見送り、意識が途絶えた。
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