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第19話 失意と鮮血の果て
目を開けると薄暗い部屋で、
身体を起こすと障子張りの部屋で。
傍らには寝息を立てる見知らぬ男。
何という名前だったか思い出そうとしてやめて、溜息。
自分は見目が美しい故に中身の汚さがより際立つ人間だ。
動いて喋って他者と関わる度にそれが露見する。
だから無意味なことは言わないほうがいい。
寧ろツクッテしまったほうがいい。
着物を整え、立ち上がった。
障子を少し開け、月明かりを見上げる。
「....こんなにまでなっても、
生きているんだよなぁ」
幼い自分は、夢も希望もないまま呟く。
誰も生かさず誰も愛さず。
故に生かされず愛されない。
当然の事なのに、酷く虚しくて。
その日は泣きたかったのに、泣けなかった。
何で思い出すんだろう。
ファリスは夢から醒めていく心地を感じながら
ゆっくりと瞼を押し上げた。
柔らかな光が飛び込み、見知らぬ天井が見える。
「...っファリス様!」
見知った顔が視界に映り、
ファリスは彼の黒い瞳を見上げる。
「...しあ...ぜ...?」
何をしていたのだったか。
記憶と夢がごっちゃになり今がどこなのか
いつなのかがわからない。
シアーゼはホッとしたように泣きそうな目をしていた。
「良かった...
勝手に自害するなんてやめてくださいよ心臓に悪い」
シアーゼの言葉に現実が蘇ってくる。
そうだ、俺は暗殺に失敗して自分の首を掻っ切った...ハズ。
ファリスは飛び起きようとしたが
シアーゼに肩を掴まれまた寝かしつけられる。
「私は...失敗して、アッシュは...?
ここは牢屋か..?」
錯乱して呟くファリスにシアーゼは困ったように笑った。
「それが俺にもサッパリで。
てっきり打ち首かと思ったんですがねえ、
どうやらアッシュ殿下は黙ってくださってるようですね」
「黙って...る..?」
意味がわからずファリスは瞬きを繰り返した。
「だってバレたんでしょう?」
シアーゼの言葉にファリスは渋々頷いた。
「ということはやはり黙っておいでのようだ。
俺たちが暗殺者だって事。知ってるのは彼だけのようですよ」
「はぁ...!?」
そんな馬鹿な話があるか。
ファリスは目を見開き、
なんだか怒りさえ込み上げてくる。
「つまりまだファリス様はアッシュ殿下の花嫁で、今は体調不良で婚礼の儀が先延ばしになっている状態です」
シアーゼの説明に頭がクラクラした。
つまり、あの夜の出来事は、
暗殺はなかったことになっているのだ。
いや、そんなわけあるまい。
「んな馬鹿な話....」
本当に馬鹿な話だ。
もしやあの"君が好きだ"というやつで
彼は自分を匿っているのだろうか。
そうだとしたら、なんとまあ。
考えなしというかボンクラというか...。
「は?好き?」
シアーゼが眉根を寄せた時だった。
部屋のドアがノックされる音が響いた。
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